熱放射の理論4:プランクの放射公式 | NOTE

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備忘録

図1.3次元断熱立方体中の電磁波の伝搬

 

 今回もこれまでと同様に、図1のような空洞を考える。空洞をN個のセルに分割すると、それぞれのセルの内部エネルギーの平均値をUとして、全内部エネルギーは

となる。同様に、それぞれのセルのエントロピーの平均値をSとすると、全エントロピーは

である。また、全エントロピーはボルツマンの公式から、系が微視的に取り得る状態数をZとして

を満たす。

 ここで、基底エネルギーをεとして、N個のセルにP通りのエネルギー状態がM準位系に配置される場合分けを考える。

 

図2.N=10,P=100の場合

 

図3.1つのセルに配置されたエネルギー状態(N=3, 11ε)

 

これより、新たに全内部エネルギーは

と書ける。また、これはN個の箱に区別できないP個のボールを分ける場合に等しく、組み合わせを用いて状態数を求めると

である。この状態数にスターリンの公式

を用いると

と近似できる。この状態数を式(4-3)に代入すると、全エントロピーは

となる。この式に、式(4-1)と式(4-4)の関係を用いると

と書き直せる。また、式(4-2)から、それぞれのセルの平均エントロピーは

である。ここで、基底エネルギーεは前々回の式(2-17)

から、エネルギーが振動数に比例するため、その比例定数をhとして

と書ける。これを式(4-10)に代入すると

となる。これを用いて、熱力学の関係式

より、式(4-12)を内部エネルギーで微分すると

となる。この内部エネルギーに、前回の式(3-4)

のνとν+dν間の状態数を体積で割り、式(4-14)の結果に掛けることで、エネルギー分布

を得る。□

出典:M.Planck. On the Law of the Energy Distribution in the Normal Spectrum

Annalen der Physik: 4 (1901) 553

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 この式は、実験で得られた温度と振動数に関する全ての範囲の放射と一致する式である。その導き方は、系のエントロピーから直接的に求められるため、他の2つの放射公式と比べて、強い論拠と堅実さが感じられる。しかしながら、実験結果とよく合い、統計力学に根付いた論理で導かれていながら、これに被せるようにレイリー・ジーンズの公式が提出されている。おそらくこの原因は式(4-11)から始まる論争が原因であろう。

 現代物理学を知るものは、定数hがプランク定数と呼ばれ、εはエネルギー量子などと呼ばれることは馴染み深いことであろうが、当時の研究者にとっては大きな混乱の元となった。その話に少しだけ触れると、この議論では系を分割して、その系が持てるエネルギーの状態数を数え上げたのであるが、例えば図3のように、エネルギー準位としてこのエネルギー自体もεの係数からわかるように、数え上げられることを前提としてしまっている。当時の通説としては、エネルギーは連続的に変化するものであって、このような離散的に数える対象のものではなかった。実際に、我々が体感できるスケールでのエネルギー変化は、プランク定数よりも何十乗も大きく、微小なスケールで離散的な変化をしていたとしてもそれを感じることは困難である。

 この議論が正しいとすれば、ニュートンから長年伝わってきた理論には修正が必要で、エネルギーにも単位量があることを受け入れなければならなくなる。このような事実に始まり、現在量子力学と呼ばれる学問分野は、段階的には様々であるが、多くの研究者たちから反発を買い、その都度大きな論争を招いてきている。

 ともかく、プランクの放射公式、およびエネルギー量子の概念が提唱されて、100年以上が経過した現在でも、この結果は否定されておらず正しいものとして継がれているため、ここではこの結果を信じるとしよう。この先の展望としては、より奇妙な事実が多く登場するが、量子力学についてはいずれ機会があれば触れるとしよう。

 次回は、プランクの放射公式を用いて、いくつかの結果を確認していこうと思う。

 

下記のリンクにプランクの論文の英語版があります。

On the Law of the Energy Distribution in the Normal Spectrum