図1.3次元断熱立方体中の電磁波の伝搬
図2.弦の固有振動
前回、ステファン・ボルツマンの法則と同様に図1,2の条件を満たすとして、前回の†式(1-3)を導く。
図3.振り子の運動
図2のような固有振動を持つ波は、図3のような系に置き換えて、運動方程式を解くことができる。図3より、質量をm、重力加速度をg、角度をθとして、運動方程式、全エネルギーE、張力Tのそれぞれの関係は
と書ける。ここで、振動が非常に小さく、θ<<1であるとすると、cosθの2次の項までのテイラー展開
を用いて、それぞれの関係は
と書き直せる。これより、運動方程式(2-5)を満たす一般解として、
が得られる。ここで、aとδはそれぞれ振幅と位相を示す積分定数であり、さらに運動方程式(2-5)から、角速度ωが得られ、振動数νは
となる。また、式(2-8)を式(2-7)に代入すると
となり、張力Tを時間の関数に書き直せる。これより、張力Tの時間平均は
と書ける。ここで、糸をゆっくりと引き上げて、LをdLだけ変化させるとして、引き上げた分の仕事を、仕事の定義より
で表わす。ただし、この仕事のうち、mgは位置エネルギーに消費されるため、系のエネルギーの増分は
である。さらに、式(2-9)のνの式をLについて微分すると、
が得られる。また、式(2-8)を式(2-6)に代入すると、
となる。ここから、式(2-13)に式(2-14)と式(2-15)を用いて整理すると、
が得られ、前回の式(1-3)が求められた。
これを踏まえて、式(2-16)の微分方程式を解くと
となる。また、前回の式(1-12)とステファン・ボルツマンの法則(1-21)
を用いると、温度と体積の関係として
を得る。ここで、体積の3乗根は長さであるから、
と書ける。さらに、前回の式(1-5)
の微分方程式を解くと
となり、すなわち
である。これにより、式(2-19)と式(2-21)から、温度と振動数の関係が
となり、比例関係にあることが得られる。この式を書き直すと
となる。この式は、式(2-17)のエネルギーを体積で割り、エネルギー密度に置き換えて、式(1-12)と式(2-18)を用いても求めることができる。最後に式(2-23)から振動数と波長の関係を用いて、定数をbと置けば、
と書ける。□
出典:量子力学Ⅰ 朝永振一郎著 P.1~ 第一章エネルギー量子の発見
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前回のステファン・ボルツマンの法則を踏まえた上で、ヴィーンの変位則を導いた。
この法則は、電磁波の波長と温度が反比例するという、単純であるが故に非常に根源的で、応用が利く重要な関係を示すものである。導出の過程において、波長と温度に限らず振動数やエネルギーなど、様々な物理量の関係が出てくることからも、如何に強力な法則かがわかることだろう。
ところで、ヴィーンの変位則とは、ピーク波長が温度に対して反比例して変化するという法則であるが、今回想定した系では、確かに波長が温度に対して反比例する関係は導けたが、その波長がピーク波長であるとは断定できないと思われる。このあたりは筆者の勉強不足ではあるが、資料が集めづらく、いくつかの有名な論文や参考書は探せても、大元に辿り着くことが困難であるため、今回はここまでとなるだろう。先人たちのやり方とは異なるが、現代風の導き方で、いずれ改めて精密な導出を行うつもりである。
次回は、ここまでの議論を踏まえて、ヴィーンが導いた電磁波のエネルギー分布の公式について記そう。
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