鍛造ピストンとピストンリング、スリーブの関係

日本ではほとんど知られていない鍛造ピストンの知識を書いたら「楽しく興味深く読んだ」、「分かっていない事が多く学びになった」とのメッセージを頂きました。

ブログで遡って読み返されているのが、マジ軽ナットのインプレション、ヨシムラの話、毎月出店しているエクスチェンジマートの報告、そして鍛造ピストンの記事です。

鍛造ピストンが記事の柱になるとは考えてもいませんでした。もちろん、日本でもレースでは使われているので私より知識がある人は沢山います。今では簡単に購入出来るので、組んでいるショップはそこそこあると思いますが、詳しい特性とか歴史まで記事にする人が少ないのだと思います。

前回で記事は終わりと思っていましたが、前述のメッセージを読んで考えたらまだ記事になる物を思い出しました。ありがとうございます。

この記事の内容は1984年のカスタム本と1988年のワイセコのカタログが基となっています。従って最近の情報とは合致しないかも知れませんので、予備知識として読んで下さい。

ダウン1984年発行のカスタム本で、当時として様々なカスタムをオートバイのほぼ全ての部品別に詳しく書いてあり、テストドライバーの同僚からも「これ、いろいろ書いてあって参考になるから貸して」と何人かに貸しました。当時、日本ではほとんど知られていなかった、レクトロン、ブルーマグナム、ワイセコ、べノリア、アルコア等はクラブのメンバーでも当時は誰も知りませんでした。著者は小関和夫氏で、なるほど、だからここまでの内容なんだと納得。

1987年頃にクラブトップの知識を持つエンス―ジアストのS氏が「ワイセコを個人輸入したい」と話し、「鍛造ピストンのウィセコですかはてなマーク」と返したのを思い出した。ウィセコと言ったのは、この本にそう書いてあったから。

アルファベットの読みの違いですね。その時点でもワイセコの名前を知っていたのはS氏と私だけ。

二つのバイクショップが逆輸入車と共にオートバイ用のワイセコも輸入し始め、そこと繋がりがあったK氏が購入して自分のオートバイに組み込んだ。これが1987年頃で、このショップの次位に私が個人輸入をし、クラブのメンバーにワイセコが広まり始めたのはそれから5年程経ってから。私が使ってみて問題ないのが広まり、「自分も使ってみたい」というメンバーのリクエストで再度個人輸入をしたのです。

K氏はピストンクリアランスをワイセコピストンの箱に入っている説明書通りで取った。それでエンジンをかけてしばらく走ったら、焼き付いてしまった。それで、もう

1サイズ大きくボーリングしてもう一度組み直したら、また焼き付いてしまった。

それで使ってもいないメンバーにも悪評はてなマークというか、不安感が広まってしまったのです。

鍛造ピストンについて詳しく調べ始めたのはS氏で、「超高圧力(1,500t)でプレスしていて金属組織が圧縮されているから、その分膨張係数が高いのではないか?」と、ダウンの表を見せた覚えがあります。

これはあくまで代表的なクリアランス。この時代は水冷はまだ少ない時代。水冷・空冷、2ストローク・4ストロークとボアでもクリアランスが変って来ます。

K氏の指定したクリアランスは純正の鋳造ピストンと同じか少し狭い数値。果たしてそれでいいのかはてなマークそこをはっきりさせないとワイセコは組めない、S氏がボーリング屋を当たって周り、ボートレース用で鍛造ピストンのボーリングをした所を見つけ聞いて来たのです。「やっぱりそうだ、鍛造は膨張係数が高い。狭いクリアランスだから焼き付いたんだビックリマーク、では取説の数値ははてなマークと思うでしょう。それは間違いだったのです。

クリアランスを大きく取らないといけないのははっきりしました。「よし、ワイセコを個人輸入するぞ」という気になったのです。

S氏に続いて私もカタログを取り寄せていました。以前書いた通り、ワイセコに手紙でカタログを送って欲しいと国際返信切手(小為替みたいなもの)を同封して送りました。届いたら早速、辞書を片手に翻訳を始めました。

やっと本題ですが、鍛造ピストンメーカーは前述の他にもあり、有名なのがコスワース。本に書いてあったべノリア、アルコアもオートバイ用は輸入・販売されておらず(知る限り)、鍛造の中では安価な方のワイセコ一択となりました。コスワースなんぞ調べたら為替もあってもう、とても無理です。

アップの本に書いてあり知ったのが、DYKYES(ダイキ―)リング。圧力が一番抜けやすいトップリングの断面が L字形状になっていて、圧縮洩れを防止し、スリーブとの当たり面が広いのでリングが斜めになりにくい特徴があります。

もちろん、ピストン側も形状に合わせて段付きの切削加工がされていて、とてもコストがかかる製法です。

ヨシムラの鋳造ピストンダウンと見比べて下さい。実際に使われていた上に時代が経って汚れているとはいえ、見る限りよく見るピストンと変わりません。ピストンピン周辺と内側も型から抜いたままでザラザラです。浮き出し文字がなければ純正と言っても分からないでしょう。これはレース用ではなく市販用だと思います。レース用が出て来たら再掲載します。

ワイセコのピストンリングのネックが、スリーブの素材との相性。

CAUTION:Chrome-plated rings cannot be used in chrome-lined cylinders.ダウンと書いてあります。クロームメッキのピストンリングは、クロームメッキシリンダーには使えない。つまり、リングとスリーブの相性があります。

このLリングのタイプはL/LM/LC/LCS/LCM/LCSMがあり、鋳鉄スリーブは全て使用可。接触面がモリブデン処理の物は電気メッキ(electricfusion)スリーブ、クロームメッキ、二カシルメッキにも使えると書いてありました。クロームメッキ同士だと使用不可です。electricfusionとは日本ではどのようなメッキの名称になるのかは不明。ポーラスメッキの事でしょうかはてなマーク

S氏は当時タンデムツインのKR250に乗っており、「KRはメッキシリンダーだからホーニングでメッキを取らないと組めない」と言っていましたが、改めてカタログを見るとKR用のラインナップはありません。S氏の事だからKRに合うピストンを見つけていたのかも知れません。ロータリーディスクバルブだからスカートの長さは吸気タイミングに影響しない。S氏は消息が分からなくなってしまったが、このブログを読めば私が分かるはず、読んでいたら連絡を下さい。

カタログの冒頭説明にはメッキを削って使用するのは不可と書いてあり、スリーブを替えて使うように書いてありました。

KR250のシリンダーのメッキタイプは何だったか忘れてしまいました。爆射だったか、ニカシルだったか、知っている人は教えて下さい。シリンダーの表面処理についても書けるかも知れませんね。

ワイセコのカタログにLCリングの物がありました。2ストロークのジェットスキー用。この頃でも米国を中心にジェットスキーのレースが行われていたからでしょう。

L形状のピストンリングはその後1990年代に供給が停止となってしまいました。ワイセコはピストンだけではなく、スリーブやビッグブロック(オーバーボア用のシリンダー)、キャリロのコンロッドも掲載があります。キャリロも憧れましたが、値段を知って諦めました。ワイセコでは2ストローク(オフロードのみ)も含めスリーブのラインナップがありました。今は2ストローク自体が消滅し、殆どはアルミシリンダーにスリーブなしでメッキしていると思うので、さすがにないでしょう。

アルコア製のピストンは写真でしか見た事はありません。この説明に書いたある通り、鍛造工程のプレスのままできれいに浮き文字が出ているのは技術力が高いからでしょう。ワイセコの裏面はプレス時にアルミが動いた(流れた)ような模様があるのですが、アルコアは一切ありません。切削工程前にショットブラスト処理をしているようなので分からないだけかも知れませんが。

写真のワイセコの字体は最初のもの、その後2度字体が変更されています。

ワイセコの動画がありましたのでリンクを貼っておきます。便利な世の中になったものです。他の動画に興味のある方はFORGET PISTONで検索すると海外の動画が見られます。

鋳造と鍛造をハンマーで叩く実験動画もありました。鍛造は簡単に欠けますが、鍛造はびくともしない、その位強度に差があります。

35年も前に会報に掲載したワイセコの記事を捜し出しました。同じボアで純正の鋳造ピストンとワイセコの重量を比較しています。

リングを除いて純正は280g、ワイセコは240gで40g軽量。更にピストンピンは肉厚が薄く短いので、純正より15g軽い。

つまり合計で55gもワイセコの方が軽量なのですビックリマークこの本では小関さんも「鍛造の方が重量が重い」と書いていますが、純正ピストンとの重量比較はしていなかったのかも知れません。もちろん、メーカーや2スト/4スト、レース専用でも変わって来るでしょうけれど。

純正のピストンにワイセコのピストンピンを組んで使った事もありますが、このような事がありました。例えば、純正もワイセコも同じ外径16㎜のピストンピンなのですが、実際は全く同じ太さではありません。純正のピストンに純正のピストンピンは入るのですが、ワイセコのピストンピンは入らない。つまり、気持ち太いのです。

マイクロメーターで測った訳ではないので、正確な違いは測定していませんが、ワイセコのピストンピンを入れるには、ピストンピンホールに耐水ペーパーを当ててやや削らないと入りませんでした。

その理由を考えたのですが、カタログ上は16㎜となっていますが、米国製で彼らの工作機械はインチ表示だからだと思います。ワイセコ製同士なら問題なく挿入出来るのですが、純正ピストンではこのような事がありました。

ちなみに、ピストンピンサークイップの太さもワイセコ製の方が太かった。もちろん、ワイセコとしては全て自社製を組むことが前提となっているので、その使い方ならば問題はありません。サークイップが外れなくなって、外すのが大変でした。

この会報では55g軽ければ、コンロッドやクランクにかかる負荷も少ないから、耐久性も変わって来ると書いています。そう、物は少ない力で動いた方が長持ちするのです。重量ではありませんが、静電気も物が動くのを邪魔しているので、それを取れば軽く少ない力で動く。エンジンならレスポンスが良くなる。除電チューニングとはそういうものです。

このように、私は数十年に渡るオートバイの趣味やテストドライバーの経験も活かして、近い将来多くの人が欲しがる、乗り物の静電気を除電して走行性能を向上させるマジ軽ナットを販売しています。

単に売れそうだから売ってみようというのとは訳が違います。友人の発想から始まり実際にテストもして素晴らしい技術を提供し、ブログで解説しています。

これから数年後にはかなり広く知られる技術になるはずです、少なくとも乗り物の世界では。なぜなら、やり尽くし状態の技術革新の未開の開拓地が、静電気の除電だからです。

そしてこの度、またマジ軽ナットが多くの人の目に留まる事になりそうです。

静電気とバカにするなかれ。生インプレッションがそれを物語っています。

購入はネットショップでどうぞ。

この本にヨシムラの記事ダウンが載っていました。不二雄さん若いですね。

そういえば、次なるヨシムラの記事を書いて欲しいとリクエストを受けていました。まだネタはあるのでそのうち書きましょうか。果たしてヨシムラは何屋だと思いますかはてなマーク

エクスチェンジマートは1月28日(日)に延期開催が決定しました。特注分もお持ちしますのでお立ち寄り下さい。

当日は嬉しいご報告もあります。まずはお金を払って入場、来店して下さるお客さんに最初にお伝えしたいと思っています。

だんだん凄い事になって来そうな予感です。

出典:カスタムバイク・ハンドブック