まだまだ校正が必要だけれど、南條文雄博士が明治から大正にかけてオックスフォード大学において

 

かのマックス・ミュラー教授のもとでサンスクリットの写本に取り組んだ「楞伽経」の現代語訳を試みた。

 

文字数にして約20万。この経典の名が真宗で取り上げられるのは、決まって龍樹菩薩の懸記について。

 

つまり釈迦が大乗仏教の祖である龍樹の出現を予言したのだ、という節が最後の章に触れられていて、

 

それが「入楞伽経(十巻)」や「大乗入楞伽経(七巻)」という漢文訳にも取り込まれ、

 

これをして浄土の七高僧に続いているという文脈があるからで、

 

釈迦正統の仏教の流れの証左としても取り上げられている。

 

 

最も、サンスクリット写本には龍樹であるナーガージュナ(Nāgārjuna)ではなく、

 

ナーガーヴァヤ(Nāgāhvaya)となっており、この名は漢字で龍猛(りゅうみょう)と訳される。

 

七高僧というよりは、真言八祖に上がる名前ではある。

 

菩提流支訳による「入楞伽経(十巻)」では以下のように記される。

 

如來滅度後 未來當有人 大慧汝諦聽 有人持我法。

於南大國中 有大德比丘 名龍樹菩薩 能破有無見。

 

これが正信偈に反映されている。

 

その190年後に実叉難陀によって訳された「大乗入楞伽経(七巻)」には

 

この部分はこのように表現される。

 

大慧汝應知 善逝涅槃後 未來世當有 持於我法者。

南天竺國中 大名德比丘 厥號為龍樹   能破有無宗。

 

漢訳では、いずれも龍樹として日本に伝わったらしい。

 

むしろ注目したいのは、「入楞伽経」には出てこない阿弥陀仏の名が、サンスクリット写本に

 

は一度だけ現れる。南條写本283頁に以下の通り、"अमिताभ"(Amitābha)とある。最下行5とある文字。

 

 

「報身、法身、応身、そして化身したように見える仏、これらはすべて阿弥陀仏の至

福の国から現れる。」

 

と訳したが、その意味がどこまで正しいのかわからない。

 

楞伽経(Laṅkāvatāra Sūtra)は、マイナーな経典ということではなく、

 

あの無量寿経の四倍ほどのボリュームがあると思う。

 

それにしても、今から百年前に英国でこれだけの仕事をしていた南條博士の根気強さは

 

流石に明治の日本人という崇敬の念を覚える。