【第28話】体育用具室の幽霊 | 百物語をしようよ。~怖い話・不思議な話・心霊話・都市伝説などのブログ形式オカルト陳列~
聞いた話。

ある中学校で、ある有名な怪談話があった。
体育館の隅にある体育用具室。
そこに下校時刻を過ぎて“3人”でいると、「ヒキコさん」がやってくるというのだ。

ヒキコさんというのは昔この学校に通っていた女の子のあだ名で、
「ヒキコモリ」からつけられた名前で、いじめられっこだった。

ヒキコさんはある放課後、カバンを隠され校舎中を探していた。
「体育用具室で見たかも」
というイジメっ子の言葉に、仕方なく一人で体育用具室へ向かったところ、
待ち構えていたイジメっ子にドアのしめられ、外側からかんぬきをかけられてしまった。
「ねえ、そこにいるんでしょう?イタズラしないで、出して…」
ヒキコさんはそう言うが、もうちょっと、もうちょっと、とイジメっ子はドアを閉めたまま。

「ねえ…出して…」
そこで、言葉は途切れた。
ほんの軽いイタズラ心からだったが、そのショックでヒキコさんは心臓発作を起こし死んでしまったのだ。
そして、そのいじめたグループというのが“3人”だったのだ。
ヒキコさんは今でも自分をいじめた生徒を捜してまだ校舎に留まっている、という怪談話だ。

「なあ、今から肝試ししねえ?」
そう言ったのは京介だった。
京介、直紀、裕太の3人はいつもつるんでいるグループで、その日も放課後まで教室でトランプをしたりしていた。
「もう下校時間過ぎてるし、今用具室行けば会えるぜ、ひきこさんに。」
元来オカルト好きの京介はノリノリだ。
直紀もそういった類いの話は嫌いではない。だが、裕太は1人乗り気ではなかった。
「や、やめようよそういうの…」
裕太は、ガキ大将的な京介と直紀にいつもついてきている存在で、気弱な性格がわざわいしいつも嫌な役を押し付けられる。そんな内気な性格だった。
「なんだよ怖いのかよー」
京介と直紀にからかわれながらも、結局3人そろって用具室へ行くハメになってしまった。

体育で使うマットや跳び箱に乗って遊んでいるが、なにもない。
「なあ、ヒキコさんが現れるってどんな現れ方するんだよ。」
「えー?うーん、追いかけられたりするのかなあ。」
などと、とりとめのない話を続けるがなにも起こらないので、3人とも飽きて来たそのときだった。

…コン…

コン…

用具室の扉を叩く音がする。


「……先生か?」
3人がそう思ったときだった。


ダンダンダンダンダン!!

ものすごい勢いで扉が叩かれているのだ。

観音開きの用具室の扉は、重い鉄で出来ており、振動が壁を伝わって3人の肩が震えるほど強く何度も叩かれている。
「先生じゃない!」
直感でそう思った。
「どうしよう、ヒキコさんに殺される」
用具室の扉はひとつしかない。その扉は今、激しい轟音を響かせている。

ガシャン ガシャン

扉を叩き付ける音の合間に、観音開きの取手を激しくゆする。
「本気でこの扉を開けようとしてんだ。どうしよう…!!」
京介と直紀が用具室の隅で震えているとき、裕太が思い立ったように立ち上がった。
そして扉に走りより、重い鉄の扉を開けたのだ。

「バカ!開けるな!開けたら…」

そう言いかけたときだった。

ふぅっと風が用具室から抜け出たようだった。

「うわーーーーー!!」
一瞬の静寂のあと、3人は糸が切れたように走り出した。
走って走って、体育館からはるか離れた校門まで3人は力一杯走った。

「はあ…はあ…バカ、いきなり扉開けるやつがいるかよ」
直紀が言った。

「だって…」
裕太は言いにくそうに言葉を濁したが、続けてこう言った。


「ヒキコさんが扉を叩いていたのは、内側からだよ。」