今、世間をにぎわしています年金給付額引き下げの議論、
ニュースや情報番組などの街角インタビューでは、ほとんどの人が年金額減少について、”今まで一生懸命働いてきたのだから年金額減少はおかしい”とか”お年寄りに気の毒”といった反対意見が老若男女にかかわらず、多数を占めておりました。
しかし、果たして本当にお年寄りはこの年金額適正化(金額減少化)によってかわいそうなことになるのでしょうか?
今回の物価スライドに基づく年金額適正化について会話形式によるわかりやすい説明が厚生労働省のサイトに掲載されております。
ハンバーガーの値段が一個100円の場合、一個80円に値下がった場合とで、年金支給額6万円の人がハンバーガーを買える個数が変わるってくるという年金の実質的価値の例え話や、物価が下がれば賃金水準も下がり、年金保険料収入も減少するという点にもフォーカスを当てているあたりは、わかりやすい説明なのではないかと思います。
99年~01年の間の物価下降にもかかわらず年金額の引き下げが据え置かれたことについても触れてあります。
以下のその内容
長女 「お父さん、何を怒ってるの??」
お父さん 「聞いてくれよ、この前、「年金額改定通知書」っていうハガキが届いて、見てみたら、今年度の年金の年額が1万円近くも減るっていうことらしいんだ(※1)!」
(※1)平成23年度の年金額は対前年度でマイナス0.4%の減額改定となりました。
長女 「それ、「昨年の物価が下がったからだ」、ってテレビで見た気がするけど。どうなのかしら。」
お父さん 「物価が下がったからなのか。なんで物の値段が下がったら年金が下がるんだ??物の値段と年金との間に何の関係があるっていうんだ??」
長男 「お姉ちゃんもお父さんもおもしろそうな話をしてるね。ちょうど僕もいま、社会保障論のゼミの課題で、今回の年金の引き下げについての発表をしなくちゃならなくて、いろいろ調べてるんだ。
公的年金は、基本的には、受給者の生活水準を維持するために、物価が上がったらそれに応じて引き上げられることになっているんだ。逆に物価が下がった場合には、それに応じて年金も引き下げるというのがそもそものルールなんだ。」
長女 「たしかにそうね。でも、物価が下がったときに年金を下げないと、何か不都合が起きるのかしら。」
長男 「物価が下がっている中で、年金を下げないと、年金の「実質的な価値」が上がる、つまり、受給している年金で買える商品やサービスの量が増えることになるんだけど、これがどうも問題になるらしいん だ。
例えば、月に6万円の年金をもらっている人がいるとして、この人が1個100円のハンバーガーを買おうとすると、月に600個買うことができるよね。でも、極端な例だけど、次の年に物価が大きく下がって、同じハンバーガーの値段が1個80円になったとすると、この人の年金額が変わらなければ、月に750個買うことができてしまうよね。」
お父さん 「600個買えるより750個買える方がいいじゃないか実質的な価値」だかなんだか知らないけど、同じ年金でいっぱい買えるようになることの、どこが問題なんだ!」
長男 「お父さんみたいに年金をもらっている人にとってはうれしい話かもしれないけれど、年金は、若い世代が払っている保険料によって賄われているんだよ。僕は学生だから猶予されてるけど、お姉ちゃんは給料から引かれてるよね。」
お父さん 「それはよくわかってるけど、おまえたちの払う保険料とお父さんのもらう年金との関係がいまいちよくわからないんだが。」
長男 「物価が下がっているということは、景気が良くないのだから、働いている人が受け取る給料の額もそのままっていうのは難しいよね。現に、去年は物価だけじゃなくて、給料の額面も下がっているんだよ。」
長女 「そういえば、私もこの前の冬のボーナス減ってたわ…。」
長男 「働いている人の給料が下がれば、その分、公的年金を運営する国の保険料収入も減ってしまうから、それまでと同じ額の年金を払うことは難しくなるってわけさ。」
お父さん 「うーん。でも、100歩譲って、物価が下がっている中では今までのようには保険料は集まらないから、年金額も下げなきゃいけないんだということは認めたとしても、本当に物価って下がっているのか?うちの前のスーパーでは野菜の値段なんか逆に上がっているじゃないか!!」
長女 「でも、外食チェーンなんかでは、値段はどんどん下がってるわよね。」
お父さん 「お父さんは家でしかご飯食べてないから関係ないぞ、そんなのは。」
長男 「お父さんはうちに料理上手で優しいお母さんがいるからいいけど、年金を受けている人の中には外食に頼る人もいるだろうね。年金は使い道を限られていないし。
だから、年金額の変更は、野菜の値段だけじゃなくて、いろいろなモノの値段を調査し、さらに平均的な家庭で購入される商品やサービスの組み合わせを計算した結果(※2)に基づいて行われるそうなんだ。」
(※2)具体的には、前年の消費者物価指数が用いられています。
お父さん 「それにしても、1万円も下がるんじゃ、みんな大変じゃないか。」
長男 「年金の引き下げ幅は、物価の下がり幅により、率で決まるんだ。年金が多い人は多いなりに、少ない人は少ないなりに、同じ比率で下がるってわけさ。
今年度は、0.4%下がるという話だから、月20万円の年金をもらっているお父さんは、月800円、年額でいうと9600円で約1万円も下がるっていうことなんだけど、これが例えば月5万円の人だったら、0.4%を掛けて、減るのは月200円だけってことになるよ。」
お父さん 「じゃあ、今年物価がまた下がったら、来年の年金はもっと下がることになるのか?」
長男 「そういうことになるよ。もし今年も物価が下がるようなら、今年の物価指数がどれくらい下がったかに応じて、来年度の年金も下げられるということが法律で決められているんだ。
逆に、物価が上がれば年金も上がるんだよな?そうしないと、さっき言っていた「実質的な価値」というのを守れないわけだから。」
長男 「考え方はもちろんそうさ。公的年金は、民間の保険会社の個人年金と違って、物価の変動に合わせたスライドが行われて「実質的な価値」を維持できるようになっている。ずいぶん昔だけど、昭和50年前後に、オイルショックで毎年物価が10%以上上がったようなときも、それに応じて年金は引き上げられたみたいなんだ。でも・・・」
お父さん 「でも、…なんだよ。」
長男 「…実は、10年くらい前に、物価が下がったのに、年金を下げないという特例を行ったことがあったんだよね。それがあって、今実際に支払われている年金は、年金財政が長期的に安定する「あるべき水準」より、2.5%くらい高い水準にあるそうなんだ。なので、この差がなくなるまでは、物価が上がっても年金は上げないことになっているんだって。」
お父さん 「そんな過去があったのか…。でも、昔「特例」ってやつをやったことがあるなら、何で今はやらないんだ。物価が下がっても年金を下げない特例をまたやればいいじゃないか。」
長女 「でも、そんな特例を繰り返してたら、保険料をいくら払っても足りなくなるわ。年金には税金だって使われているんだから、年金だけ高止まりさせておくのはよくないと思う。…それにしても、物価が下がって、給料も下がって、年金も下がって、なんて縮んでいくようなことばっかり言っていると気が滅入るわね。」
長男 「やっぱり、経済がうまく回って、若い世代の稼ぎが増えて、その分、お年寄りの受け取る年金も、少しずつ増えていく…そんなふうになっていかないとうまくないよね。経済がよくない中で、年金だけはそれと関係なしにいられるなんて、無理だっていうことさ。
お父さん 「うーん。経済がよくならないと、うまくいかないってことかあ…」
理屈で説明すると今回の物価スライドに基づく年金額適正化は、理にかなっており、いたしかたないことであることは理解できるのですが、この厚生労働省のサイトに掲載されたお父さん、長男、長女の会話でも、イマイチ登場人物たちの納得性が無いように感じられます。
厚生労働省の人たちもおそらくお年寄りの年金を引き下げるという「事実」に後ろめたさがあるように思えます。
もしそうなら、政府も財政支出における無駄遣いをより積極的に削減する努力を誠意をもって示して財政健全化に向けての断固たる決意を見せてもらいたいものです。