#02 彼女の瞳の奥には…
〈入学式から2週間〉
…あれから2週間経ってもなお、オレは彼女の目の色のことが気にかかっていた。
寝る前に、部屋で少しあの目の色を浮かべながら、小鳥遊が抱えた
小鳥遊は、極度の人見知りのせいで、人と会話することがうまく出来ない、というのが、彼女の母親の見解であった。
ただ、あの目の色から察するに、あいつがああなったのは、どう考えても極度の人見知りのせいだけではない。
同じ目をしていた。
だからこそ、痛いほどわかる。
理由は人それぞれだとしても、おそらく彼女は―。
…そんな考え事をしながら、スマホでTwitterを見ていると、LINEの通知がポップアップに表示された。
見てみると、小鳥遊からだ。
『…少し、日高くんに聞いてもいい?』
《いいよ!どうしたの?》
『…日高くんは、あたしのこと、どう思ってる?』
その文面を見たとき、ある種の言葉の重さを、オレは感じ取らざるを得なかった。
LINEの文字だと、軽い意味に伝わってしまうようにも思えるが、相変わらず、彼女の目の色のことが気にかかっているオレとしては、なんだか少しだけ嫌な予感がしたのだ。
《…何かあったの?》
『ううん、少し気になったの。あんな風に話しかけちゃったから…』
彼女は、人間関係にそれなりのトラブルを抱えていたのだろう。
思ってはいたものの、やっぱり、と、その文面で感じる。
《さくら…でいい?…さくらのことは、これからもっと知っていければいいと思ってる。まだ知り合ったばかりだし、ああやって話しかけてくれたこと、嬉しく思ってるよ》
実際のところ、不思議だった。
他人には、ここ数年、本当の意味で心を開いたことなんてなかったオレが、素直にそんな文章を書いていたのである。
同類だったから?
…いや、違う。
じゃあ、やっぱり目の色が?
…それも違う。
性別は違うものの、もうひとりのオレを見ているようで、なんだか怖いのである。
率直にいえば、感情移入し過ぎているのかもしれない。
それでも、自然に指は次のメッセージを打つために動き始めていた。
《何があったかは聞かないけどさ…、死んだりなんかはするなよ、さくら》
送信ボタンを押して、自分で書いたことのおこがましさに悶えていると、小鳥遊から返信があった。
『…ありがと。…あたし、この性格のせいで、昔からいじめられてきたから、死んじゃいたいって思うときもあるんだ』
それを見た瞬間、すべてを悟ったオレは、この夜の街を駆け出したい気持ちになっていた。
《…わかるよ、わかる。痛いほどわかる…!だからこそ、死んだりすんなよ!!》
オレは自殺志願者とまではいかなかった。
そんな勇気がなかった。
でも、このまま死ねたらどんなに楽か。
そう思ったことは、幾度となくあった。
が、自殺しようとしても、誰も止めてくれるような存在がいなかった。
オレはグレてから、はっきり言えば、人の愛に飢えていた。
今だって、その感覚に慣れてしまっただけの話で、たぶんまだ飢えている。
自分が消えたところで、なんの影響もなく、世の中は回っていく。
時計の針は止まらないのだ。
そういう意味で、人生の無意味感に襲われるときに、自らの命を絶ってしまいたくなるのだろう。
実際、このまま死ねたらどんなに楽かという思考回路は、そういうときに決まって出てきた。
…まあ、というのは、自身の経験談にしかならない。
でも、そこで死んでしまえば、苦しみからは解放されるかもしれないが、そこで(いじめだったら、そのいじめを仕掛けたやつ)に負けてしまうと思う。
そいつが与えてきた苦痛に耐えかねて、人生をリタイアしてしまうなんて、オレは嫌だ。
人はいつか死ぬ。
なら、そいつが死んだとき、葬式で不謹慎なくらいに高笑いしてやればいい。
いじめっ子も、いじめたやつがそんなに堂々と人生を謳歌していたら、きっと悔しいだろう。
お前はオレに似ている。
だからこそ、放っておけないんだよ、さくら。
オレは―。
…オレは慎重に、でも勢いよく、メッセージを打った。
《オレも同じ経験をしてきたよ。だから、痛いほどわかる。…いじめられて、自分が必要なく思えて、死にたくなってさ。オレは本当に誰も死にたくなったときに止めてくれるような存在がいなかったけど、小鳥遊がそうなるのは、似た者同士、意地でもオレが全力で止めてやる。》
そして、最後にこう書き加えて、送信ボタンを押した。
《オレ、ヤンキーだから笑、もし逆に、お前の目の前でオレが無茶しそうだったときは、抱きつくなりなんなりして、止めてくれ!約束な?》
そのメッセージに対する彼女の返信は、なかなか来なかった。
だいぶ経って、やっと来た文面は、こんなだった。
『…ありがと。泣いちゃうから、あんまり感動させないで(>_<)笑 でも、嬉しかったよ!』
彼女の目の奥の闇を、少しずつ薄めることが、オレにできるのなら、あいつの目の色はだんだん戻っていくはずだ。
そして、いつか澄んだ目で笑いながら地声で話す小鳥遊の姿を、オレはなぜだか妙に見たくなっていた。
そういう日は意外と近かったりして…?
(つづく)
〈入学式から2週間〉
…あれから2週間経ってもなお、オレは彼女の目の色のことが気にかかっていた。
寝る前に、部屋で少しあの目の色を浮かべながら、小鳥遊が抱えた
小鳥遊は、極度の人見知りのせいで、人と会話することがうまく出来ない、というのが、彼女の母親の見解であった。
ただ、あの目の色から察するに、あいつがああなったのは、どう考えても極度の人見知りのせいだけではない。
同じ目をしていた。
だからこそ、痛いほどわかる。
理由は人それぞれだとしても、おそらく彼女は―。
…そんな考え事をしながら、スマホでTwitterを見ていると、LINEの通知がポップアップに表示された。
見てみると、小鳥遊からだ。
『…少し、日高くんに聞いてもいい?』
《いいよ!どうしたの?》
『…日高くんは、あたしのこと、どう思ってる?』
その文面を見たとき、ある種の言葉の重さを、オレは感じ取らざるを得なかった。
LINEの文字だと、軽い意味に伝わってしまうようにも思えるが、相変わらず、彼女の目の色のことが気にかかっているオレとしては、なんだか少しだけ嫌な予感がしたのだ。
《…何かあったの?》
『ううん、少し気になったの。あんな風に話しかけちゃったから…』
彼女は、人間関係にそれなりのトラブルを抱えていたのだろう。
思ってはいたものの、やっぱり、と、その文面で感じる。
《さくら…でいい?…さくらのことは、これからもっと知っていければいいと思ってる。まだ知り合ったばかりだし、ああやって話しかけてくれたこと、嬉しく思ってるよ》
実際のところ、不思議だった。
他人には、ここ数年、本当の意味で心を開いたことなんてなかったオレが、素直にそんな文章を書いていたのである。
同類だったから?
…いや、違う。
じゃあ、やっぱり目の色が?
…それも違う。
性別は違うものの、もうひとりのオレを見ているようで、なんだか怖いのである。
率直にいえば、感情移入し過ぎているのかもしれない。
それでも、自然に指は次のメッセージを打つために動き始めていた。
《何があったかは聞かないけどさ…、死んだりなんかはするなよ、さくら》
送信ボタンを押して、自分で書いたことのおこがましさに悶えていると、小鳥遊から返信があった。
『…ありがと。…あたし、この性格のせいで、昔からいじめられてきたから、死んじゃいたいって思うときもあるんだ』
それを見た瞬間、すべてを悟ったオレは、この夜の街を駆け出したい気持ちになっていた。
《…わかるよ、わかる。痛いほどわかる…!だからこそ、死んだりすんなよ!!》
オレは自殺志願者とまではいかなかった。
そんな勇気がなかった。
でも、このまま死ねたらどんなに楽か。
そう思ったことは、幾度となくあった。
が、自殺しようとしても、誰も止めてくれるような存在がいなかった。
オレはグレてから、はっきり言えば、人の愛に飢えていた。
今だって、その感覚に慣れてしまっただけの話で、たぶんまだ飢えている。
自分が消えたところで、なんの影響もなく、世の中は回っていく。
時計の針は止まらないのだ。
そういう意味で、人生の無意味感に襲われるときに、自らの命を絶ってしまいたくなるのだろう。
実際、このまま死ねたらどんなに楽かという思考回路は、そういうときに決まって出てきた。
…まあ、というのは、自身の経験談にしかならない。
でも、そこで死んでしまえば、苦しみからは解放されるかもしれないが、そこで(いじめだったら、そのいじめを仕掛けたやつ)に負けてしまうと思う。
そいつが与えてきた苦痛に耐えかねて、人生をリタイアしてしまうなんて、オレは嫌だ。
人はいつか死ぬ。
なら、そいつが死んだとき、葬式で不謹慎なくらいに高笑いしてやればいい。
いじめっ子も、いじめたやつがそんなに堂々と人生を謳歌していたら、きっと悔しいだろう。
お前はオレに似ている。
だからこそ、放っておけないんだよ、さくら。
オレは―。
…オレは慎重に、でも勢いよく、メッセージを打った。
《オレも同じ経験をしてきたよ。だから、痛いほどわかる。…いじめられて、自分が必要なく思えて、死にたくなってさ。オレは本当に誰も死にたくなったときに止めてくれるような存在がいなかったけど、小鳥遊がそうなるのは、似た者同士、意地でもオレが全力で止めてやる。》
そして、最後にこう書き加えて、送信ボタンを押した。
《オレ、ヤンキーだから笑、もし逆に、お前の目の前でオレが無茶しそうだったときは、抱きつくなりなんなりして、止めてくれ!約束な?》
そのメッセージに対する彼女の返信は、なかなか来なかった。
だいぶ経って、やっと来た文面は、こんなだった。
『…ありがと。泣いちゃうから、あんまり感動させないで(>_<)笑 でも、嬉しかったよ!』
彼女の目の奥の闇を、少しずつ薄めることが、オレにできるのなら、あいつの目の色はだんだん戻っていくはずだ。
そして、いつか澄んだ目で笑いながら地声で話す小鳥遊の姿を、オレはなぜだか妙に見たくなっていた。
そういう日は意外と近かったりして…?
(つづく)