#07 Love&Pain-Side:B-

オレは、小鳥遊と別れたあと、夕暮れの雑踏を駆けぬけて、もうひとり、会いたい人のところへ急いだ。

待ち合わせ時間はもうすぐ、待ち合わせ場所は、オレや兄貴、それに琴音が小学生の時には遊び場に、中学生の時には決闘場のようにしていた公園。

そこで悪ガキども(そいつらから見たら、オレの方がよっぽど悪だっただろう)と、何回殴り合いの喧嘩をしたか分からない。

下手すると、いつも流血沙汰の喧嘩だったから、土の養分として、少々オレの血とかも入ってるんじゃないか。

今回の待ち合わせ場所は、そういう曰く付きというか、因縁の場所である。



…待ち合わせ時間から遅れること数分、オレが待ち合わせ場所に到着すると、そこにはもう『あいつ』がいた。

「…久しぶり、つばさ」

そういうと、つばさは、オレの顔を見て嬉しそうに手を振った。

茅野つばさ。
以前にもお話ししたが、オレの彼女であり、オレをいじめから救ってくれた張本人だ。

高校が離れてしまったので、しばらく会えていなかったが、「話したい」と連絡して来てもらった。

…にしても、相変わらず、きれいだ。



「会いたいって言ってくれて嬉しかったんだけど…、急にどうしたの?祐一のことだから、また何か相談事?」

会ってからしばらく雑談を交わしたあと、不思議そうにつばさが聞いてきた。

「…ひとつは、本当にお前に会いたかったこと、もうひとつは、いじめ撲滅の協力要請」

そう言って、オレはあるシーンがフラッシュバックするとともに、少しだけ遠くを見た。


―中学時代、血だらけになって喧嘩して、何回倒されようと起き上がって、また殴りかかる。

しかも厄介なのは、今、殴り合いしているやつとオレは顔見知り程度で、名前も知らない。

そんなやつから、普段いじめられてるやつの敵討ちをされるんだから、やられてる側からしてみれば、理不尽なことこの上ない。

ひどいときには、いきなり、兄貴と琴音とオレという、校内いちのヤンキー集団に呼び出されて、そういうやつをボコボコにする。

そうして、相手をボコボコにしたあと、オレが疲れてのびてるところに、つばさが走ってきて、「大丈夫!?」と、闘いを終えたヤンキーたちを心配する。

(そういう意味では、中学時代、オレは尾崎豊の歌のように、卒業式の日、校舎の窓ガラスを叩き壊して回るような、『パンダヒーロー』みたいに左手に金属バットを持って振り回してしまえるような暴力性は、十分にあった)

…そういうシーン。


つばさと出会って、アラクレ者は、改心するつもりでいた。
でも、やっぱり無理らしい。

歪んだ正義感は、根底にこびりついて取れなさそうだ。

「実は―」

そうして、ことの詳細を聞いたつばさは、少しだけ固まって、泣きそうな声でこう言った。

「…無理はしないでね。彼女として昔から心配なの」
つばさは、オレに対して止めることも発破をかけることもなく、それ以上、何も言わなかった。

それでも心配そうなのは、中学時代、「大丈夫」と高をくくっては、血だらけになって帰ってきたオレを、幾度となく見てきたからだろう。

「…できるだけ、しないようにするよ」

もう、心配させたくないのはやまやまだが、小鳥遊の一件が落ち着くまでは無理をしなければ救えない。

オレは、つばさに笑顔でそう言ったことが、少し後ろめたかった。



…あの後、しばらく話して、それじゃあ、と別れ、家に帰ったオレは、つばさに対する後ろめたさが消えないまま、大きくため息をついて、ベッドに飛び込んだ。

(…ごめんな、つばさ。迷惑ばっかかけて…)


誰かの曲で『Love&Pain』っていうのがあった気がするが、まさにそんな気分。

こんなに好きなのに、胸が痛い。

情けなくて、心が痛かった。

(…恋人に嘘ついてまで人を救いに行こうとしてる、にわかヤンキーに天誅っすかね、神様…)

本当に、なにやってんだオレは…。

そう思って、悶々としているとスマホが鳴った。

どうやら、LINEのメッセージが来たらしい。

…見てみると、小鳥遊からだ。


『…さっきは急に抱きついてごめんね』

どうやら、さっきの大通りの一件のお詫びらしい。

《…あぁf(^_^;、別に大丈夫だよ》

『よかった~笑 …それとね、日高くん』

…と、思っていたオレの予想は、次の一言で思いっきり覆ることになる。

『…あたしのために頑張ってくれてるのは嬉しい。でもね…、あたしのせいで、日高くんに傷ついてほしくないの。…だから、別にあたしを救ってくれなくていいから…、お願い、ずっとあたしの側にいて…』

(つづく)