2 天と地
2048年 東京 都立俎橋高校
― もう2年か。
宮野小春は、窓際の席で日没の陽光を浴びながら、ふとそんなことを考えていた。もう3年。小春が黛涼子と会わなくなってから―
― りょーちゃんからは、この人混みなんか全然見えないんだよなあ。
小春は、窓から眼下の都道302号新宿両国線を見下ろしつつ、そんなことを考えた。彼女が都立高校に進学したのに対し、涼子は航宙自衛隊高等工科学校に進学したのだった。今は実習中で、はるか上空の宇宙ステーションに滞在している。
― 着々と夢を実現しつつあるねえ。りょーちゃん。
聞こえるわけもないのに、小春は涼子に呼びかける。内心、それに比べ自分は―という焦燥感と自己嫌悪が渦巻いているのだった。宇宙を目指すと決めたものの、自分は具体的な行動を何も起こせていない。宇宙で何をするのかも、まだ何も。
― 宇宙で何をするのか。その点、りょーちゃんははっきりしてる。「宇宙で働く人を守る」立派な仕事だ。うん。
しかし、立派な仕事と尊敬しつつ、小春は胸中にひっかかりを覚えた。
― 宇宙で働く人を「守る」ということは、りょーちゃん自身は危険な目に遭うかもしれないということ……
考えてみれば当たり前のことだが、小春にとっては疑問だった。
― あの日、りょーちゃんはそこまで考えて、
「私は航宙自衛隊に入りたいんだ」
と言ったんだろうか。
― 考えてないわけないじゃん。
小春は自らに反駁した。だって彼女の家は代々軍人で ―
― いや、やめよう。私が考えてもなんにもならないんだから。
小春は頭の中にまわりついた何かを払うように頭を振り、帰宅しようと席を立った。小春の通う俎橋高校は、偏差値的には「普通」な、市ヶ谷駅から1駅の九段下駅を最寄駅とする都立高校である。自然、本村中出身者も多い。
宮野小春はどこか中学の延長のような教室に既視感を覚える一方で、斜め前に黛涼子が存在しない中学との決定的な差異を感じながら、高校最初の一年を過ごした。そして今、高校2度目の5月を迎えている。かつての人懐っこい快活さは、都会の喧騒にかき消されていた。