2 天と地


204 東京 都立俎橋高校

  ― もう2年か。


 宮野小春は、窓際の席で日没の陽光を浴びながら、ふとそんなことを考えていた。もう3年。小春が黛涼子と会わなくなってから―


  ― りょーちゃんからは、この人混みなんか全然見えないんだよなあ。


小春は、窓から眼下の都道302新宿両国線を見下ろしつつ、そんなことを考えた。彼女都立高校に進学したのに対し、涼子航宙自衛隊高等工科学校に進学したのだった。今は実習中で、はるか上空の宇宙ステーションに滞在している。

 

 ―  着々と夢を実現しつつあるねえ。りょーちゃん。


聞こえるわけもないのに、小春は涼子に呼びかける。内心、それに比べ自分は―という焦燥感と自己嫌悪が渦巻いているのだった。宇宙を目指すと決めたものの、自分は具体的な行動を何も起こせていない。宇宙で何をするのかも、まだ何も。


―   宇宙で何をするのか。その点、りょーちゃんははっきりしてる。「宇宙で働く人を守る」立派な仕事だ。うん。


しかし、立派な仕事と尊敬しつつ、小春は胸中にひっかかりを覚えた。


―  宇宙で働く人を「守る」ということは、りょーちゃん自身は危険な目に遭うかもしれないということ……


考えてみれば当たり前のことだが、小春にとっては疑問だった。


― あの日、りょーちゃんはそこまで考えて、


「私は航宙自衛隊に入りたいんだ」

と言ったんだろうか。


  ― 考えてないわけないじゃん。


 小春は自らに反駁した。だって彼女の家は代々軍人で ―


  ― いや、やめよう。私が考えてもなんにもならないんだから。


小春は頭の中にまわりついた何かを払うように頭を振り、帰宅しようと席を立った。小春の通う俎橋高校は、偏差値的には「普通」な、市ヶ谷駅から1駅の九段下駅を最寄駅とする都立高校である。自然、本村中出身者も多い。


宮野小春はどこか中学の延長のような教室に既視感を覚える一方、斜め前に黛涼子が存在しない中学との決定的な差異を感じながら、高校最初の一年を過ごした。そして今、高校2度目の5月を迎えている。かつての人懐っこい快活さは、都会の喧騒にかき消されていた。