この初期短編集はSFなのだろうが、ぶっ飛びすぎていて、なんだかあまり面白くはなかった。いちおうメモる。ネタバレです。

 

 R62号の発明: 運河の鉄橋から飛び込み自殺をしようとしていた機械の設計士たる主人公は、学生に声をかけられる。生きたままの死体を売ってくれる人を探すアルバイトをしているのだと。主人公は、高水製作所という事務所で契約し、R62号と仕分けされる。脳に手術を受け、ロボットとなり(Rはロボットのこと)、人間合理化の機械を制作させられる。そして最後に、それは高水社長を包み込み、ズタズタにする。所長の顔は恐怖に歪んだ。

 

 パニック: 主人公は、職業紹介所の出口でパニック商事の求人係に声をかけられる。指定された飲み屋に出向き、泥酔して、目が覚めるとどこかのアパートにいて、人を殺してしまったようである。逃げ出して、数日、尾行されているのに気づく。その尾行者は、主人公が殺したはずの人物であった。ここ数日の事件はテストでパニック商事はドロボウ会社だという。いやだと言うと、刑事仲間に社員を送り込んであるので、社員でなくなれば逮捕されると言われ、実際に逮捕されてしまう。

 

 : 主人公は、[美術の?]研究所の裸体モデルと結婚する。彼女は研究生たちに抱きつかれるのを喜ぶという習慣があった。主人公はその女と結婚する。女には犬がついている。とてもへんな犬であり、人間のようである。その犬との闘争の日々が始まる。ついにその犬は笑ったり、口をきくようになる。そして『妻の顔』という作品を仕上げたとき、妻は消えたが、主人公は、食べる前に臭いを嗅いだり、孫の手で体を掻いたりという、犬のような習性のある女房を待ち続ける。[シニカルな話です。]

 

 変形の記憶: 軍隊にいた主人公はコレラに罹り、射殺されるが、魂だけは部隊のトラックに同乗する。そこにいた眼鏡の少尉も射殺されるが、その魂は主人公の魂によってトラックに引き上げられ、二人の魂は肉体が失われたことを悲しみ、対話する。トラックが中国人の部落に入ろうとした時、それを妨害した老婆を射殺するが、その老婆の魂は将校らを攻めたてる。部落の何十という死人の魂も然り。トラックは暗闇の中、草原を進むが、ヒロポンを飲んだ運転手は一分間に一度ずつ右に曲がる癖があるので、明け方、再び前日の部落に戻る。そこの門に立つ五人の武装した青年たちが発砲し、トラックは草原に逃げるが、上空から赤軍の飛行機に見張られていた。中佐も死んで魂となるが、その魂は死んで横たわる浮浪児の中に入る。二人の魂は、中佐の魂は、生きている人間の肉体を盗む前科があるのだろうと話す。[戦場には成仏していないゾンビがたくさん右往左往しているイメージである。]

 

 死んだ娘が歌った: 主人公は、Kさん(主人公の好きだった映写技師だと後でわかる)に叱られ、眠り薬を飲んで自殺し、気がつくと魂になっている。ほかにも死人がいることがわかり、死んでも何もかも終わりでないことがわかると恐くなる。その十日前、貧しい家に生まれた主人公は東京のあるお店で女中として働き始めるが、お客をとる子はもっと稼ぐと言われる。再び死んでからの話: 店の主人は主人公の実家に為替を送り、妹がその店に働きに行くことになる。再び、死んだ主人公の回想: 紡績工場で働いていた時のこと。そこを解雇され、結核になった父のため、東京に行くことになったこと。またしても魂になった主人公: 郷里の映画館を見に行き、工場の寮に戻り、ほかの死人とともに守衛を囲んで歌を歌い、社長室で遊ぶ。[『ああ野麦峠』のイメージ。おそろしく暗い。]

 

 盲腸: 主人公Kは、ある学説の試験台として、自分の盲腸に羊の盲腸を移植させられる。そこへ月刊心理の記者が訪ねてくる。Kはそれを激しく拒む。外出すると腸が鳴動し、それを監視していた助手に指摘される。その実験は、飢餓問題に関する学会における勝敗にかかっているいるのだと聞かされる。妻子との食卓で、Kだけは所定の量の藁を食す。百グラムの藁を一時間以上かけて咀嚼する。そのような食事に慣れた頃、Kは性格も無口でおとなしくなっていった。Kは世界的食糧難からの解放者として祭り上げられるも、栄養失調に陥り、学会の前に盲腸が摘出され、普通の人間に戻ってしまったが、外では飢えが彼を待ち受けていた。

 

 : 主人公は、駅前のデパートの屋上で二人の子供の守をしながら街を見下ろしていた時、棒になって墜落し、地面に突き刺さる。それは双子のような学生とその先生によって拾われる。三人は棒について色々話し合い、最後には置き去りにした。棒は踏んづけられ、地面にのめり込んだ。父ちゃんという子供の叫び声が聞こえたが、自分の子供の声のようでもあり、違うようでもあった。[何とシニカルな短編!! 人間は誰しも棒みたいな存在だということなのね。]

 

 人肉食用反対陳情団と三人の紳士たち: いずれも左手のない三人の政府の要人が、人肉食用に反対する人々の陳情を受け、応答する。待合室から呼ばれて陳情する人々はまるで豚や牛を擬人化したようである。人間はクジにより、食肉化されることになっているようだ。三人の紳士は、トサツ場でストライキが起きたと知る。[読みながら、安部公房の妄想につきあうのはばからしくなってくる。]

 

 : 田舎出の若者が東京で人探しをしている。探しているのは久木三男という、錠前工場に勤めている人で、彼の叔父だという。その叔父の家を訪ねると、胡散臭がられたと思ったら、こんどは乱暴に引きずりこまれる。いくつか質問を受けた後、住み込むことになる。嘘発見器のような娘のために、その家には女中が長く居付かなかった。家の構造が奇妙なのでみまわっていると、叔父に見つかり、案内される。叔父は、天才的な万能合鍵「鉤十字」をもっているらしい。ある晩、警官が踏み込んでくる。叔父は錠前破りの兇状もちだというのであった。[だんだん疲れてきた。]

 

 耳の値段: ある大学生が留置場にほうりこまれたが、書類が紛失したので理由は不明であった。出所して大学に行くと、月謝滞納表に名前がある。法科の同級生の横山が話しかけてくる。横山は大きな耳をしていた。学生は、安部公房という小説家に倣い、六法全書で金儲けをしようと考え、簡易傷害保険自動販売機で保険を買い、横山の耳を切り取ろうとするが、ぜんぜん切れない。結局現行犯で捕まり、留置場に舞い戻る。[なんだかよくわからない。読んでいて疲れた。]

 

 鏡と呼子: Kはある村に教員として赴任してきた。役場に校長が出迎えに来ており、徒歩でとても遠い学校へと向かう。その村では、若者の家出がたえないという話を聞かされる。阿瀬宇然という老人の家に下宿することとなっており、その姉である老婆が緬羊を連れて迎えに来ていた。阿瀬家は古い家で、彼の部屋の隣には緬羊が飼われており、ノミとニオイに悩まされることになる。その老人は、石灰山に登り、望遠鏡で村の様子を覗くのを日課とするキ記だと社会科教師から聞かされる。ある日主人公は、その老人のいる山へ登り、望遠鏡を見せてもらう。それは天体観測用のものであり、天地逆さに鮮明にすべてが見えた。社会科教師はその老人はスパイであり、鏡と呼子を使って通信しているのだと言う。ある日、老人の妹の老婆がトラックにはねられて死ぬと、家には親類が続々と集まり始め、家財が消える。そして、家出した息子の子供が訪ねてくるが、山で望遠鏡を覗いている老人には会わずに立ち去る。町に戻るバスが発車すると、呼子の音が連呼した。[へんな話だ。]

 

 鉛の卵: どれい族の炭鉱で、長さ4.5メートルほどの鉛の卵が発見される。それには《クラレント式恒久冬眠箱CM 1978- 2087》と刻まれた真鍮板がとめ付けられてあった。調査団によれば、それは2087年に自動的に開くはずであったが、80万年を経て、古代炭化都市層に埋もれたままになっていた。それが再び作動し、設置された博物館の大ホールにて目覚め、中から古代人[1978年の人間]が現れる。その古代人が出会った80万年後の人間は、大飢饉の時代を経て、緑色の植物化していた。法廷に引き出され、万能翻訳機により、尋問が行われる。古代人は街を案内される。犬には羽が生えている。人類は、大飢饉により、根から水や養分を吸収するようになっていた。博物館に戻った古代人の前に自分に似た生き物が現れる。彼が見たのは、緑色人の保存公園であり、緑色人がどれい族と呼ぶ種族は、本物の現代人であることを知った古代人は喜びにひたる。[安部公房の発想のぶっ飛び方に脱帽。]

 

 このようにシュールなSFを発想するとは、有名になる前の安部公房は貧乏で飢えていたのだろうかと想像した。