2021年本屋大賞受賞作である。孤独、トランスジェンダー、虐待、ヤングケアラー、昨今のニュースでよく話題になるが、ぜんぶ私からはほど遠い主題であるからこそ、読んでみようと思った。

 

 話は8つの章にわけられているが、長編である。以下、ネタバレの自分用メモ。

 

 1. 主人公は東京から大分の海岸地帯の田舎に引っ越してきたようで、住民たちの間では風俗嬢であったようだと噂されていた。それは家の床の修理を頼んだ若い大工から聞いた。急に降り出した雨のもとで、主人公はへんな子に出会う。その子は、別の日に雨の中、買い物に行ったとき、傘を飛ばされた主人公が急な腹痛に襲われた時に助けてくれた。家まで送ってもらい、無理してお風呂に入れようとしたところ、女の子ではなく男の子であることがわかる。全身に痣があった。

 

 2. ある日、ラジオ体操をしている住民たちの一団を覗く。あの子はいない。床を修理してくれた大工の若者が訪ねてきて話をする。その会話により、主人公が住んでいる家は、芸妓で妾をしていた祖母の家であったと説明される。例の痣だらけの子供は、その若者の知り合いの息子ではないかという話もでる。

 主人公が、再婚した母から虐待を受けていたこと、そのような状況から「アンさん」という人が介入して救出してくれたことなどが語られる。

 そのなある日、例の少年が訪ねてくるが、口をきけないようで、タブレットやメモを用いて対話する。この子からは自分と同じ匂いがする。親から愛情を注がれていない、孤独の匂い。心にしみつく厄介な匂い、が。

 主人公はネットで自転車を買い、行動範囲がやや広まる。例の大工の若者に声をかけられ、誘われて行った定食屋で、例の少年の母親が働いていた。その数日後の夜、頭からケチャップをかぶった例の少年が訪ねてくる。世話をやくうちに、MP3プレーヤーに入っているクジラの鳴き声についての話題となる。

 

 3. 五年前、主人公が義父を介護していた時の話。寝たきりになった義父は彼女に暴力を振るった。そして義父が入院し、錯乱した母が、ALSを発症したのは主人公のせいだと詰ったことに打ちのめされ、街をふらついていたら、友人に会う。こうして、アンさんが彼女を救出することになった経緯が説明される。

 

 4. 例の喋れない少年が主人公の家で寝る。少年の事情を尋ね、主人公は少年の母親に会いに行き、少年の面倒を見させてもらうと告げる。そんな時、東京の友人が訪ねてくる。主人公が死んだのではと心配していたらしい。その友人と主人公は少年を連れて、北九州市にある、少年が育った親戚の家を捜す。少年の面倒をみていた祖母と叔母は他界していた。二人を知る老女から少年の実名「愛(いとし)」を知らされる。

 

 5. 主人公が、アンさんのおかげで実家を出て就職することができた頃の話。主人公はアンさんをアンパンマンのような人だと思いつつも異性としては見ていなかったし、アンさんからもそういう目で見られているとは感じていなかった。そして二年が経ち、ある事故をきっかけに、主人公の職場の跡取り息子とつきあうようになる。ある飲み会で、アンさんとその跡取り息子は火花を散らし、ほどなくアンさんが姿を消す。そのうちに、その跡取り息子には婚約者がいることが噂となり、主人公は妾のような立場に甘んじざるを得なくなる。アンさんは、会社の社長に、息子に愛人がいることを手紙で知らせ、主人公は監禁されたようになる。

 

 6. 主人公は友人に、跡取り息子のこと、アンさんのことを語る。アンさんは婚約者にも手紙を送る。跡取り息子はアンさんのことを興信所に調べさせ、彼がトランスジェンダーだと分かり、それを主人公に告げる。また、彼はアンさんの母親に「彼」が自分の恋人のストーカーをしていると告げ、アンさんは追い詰められる。興信所の調査票からアンさんの居所を知った主人公はその住まいを訪ねる。そこでアンさんの母親と出会うが、その時にはすでにアンさんは浴槽で自殺していた。

 アンさんが残した主人公の彼氏宛の手紙を持ち帰ると、男は読みもせず、焼く。それに及んで、主人公は柳刃包丁を手に取り、跡取り息子を刺そうとするが、逆に刺されてしまう。近所の人が警察に通報してくれたので、一命は取り留めた。警察沙汰にしたくない会社の社長は多額の示談金を提示した。

 

 7. 4の続き。三人は大分に戻る。大工の若者からのメモがあり、連絡すると、例の少年が誘拐されたことになっているとのこと。その若者の祖母に相談するよう勧められ、会いに行く。彼女は、少年の祖母(離婚して再婚し、別府に住んでいる)の話を出し、主人公たちは会いにいくことになる。

 

 8. 少年の祖母とその夫は里親制度、未成年後見制度などに詳しく、今後どうすべきかを相談にのってくれる。とりあえず、少年はその祖母のもとで二年間暮らし、主人公が経済的に自立できた段階で後見人として選任申し立てを行なうこととなる。

 

 以上あくまでも自分用のメモである。様々な問題を抱えた人々がこんなにいっぺんに出会うということは現実にはないかもしれないが、自殺したりする人もいるとはいえ、中には絶望したりせず、希望を見出すという結末は明るいと思った。ああ、これまでに報道されている様々な児童虐待死亡事件を思い出さずにはいられない。