いつだったかこの人の書いた『ミラノの太陽、シチリアの月』を読んだことがある。さらりとしているがなかなか味わい深いものがあった。エッセイというのは、書き手の人柄がにじみ出るものだ。コロナ禍で行きたくとも行けないイタリアへの想いが募る中、今度はこの本を手にとってみた。

 内田さんはミラノを本拠にしているが、イタリアのあちこちに住み着いてエッセイを綴っている。このたびはヴェネツィアだ。家探しから始まる。それも寒い冬に。Ponte della Libertà を渡り、サンタ・ルチア駅に着くと冠水している。暖を取るためにたまたま入った閉館間際の美術館で、貸し家情報を得ることができ、ジュデッカ島に住むことになった。北向きの窓を額縁とするヴェネツィアにため息、である。

 2階の住人は音楽家で、ティツィアーノの「聖母被昇天」を祭壇画に持つフラーリ教会のコンサートに誘われた。その前に腹ごしらえをする。カルチョーフィの芯の部分をマンマと呼ぶとは知らなかった[シチリアのチェファルーのカルチョーフィはガクに刺があり、アクが少ないので生でも食べられて最高に美味しいが、ヴェネツィアのにはアクがあって美味いらしい]。

 内田さんはいろいろな人と付き合い、それをネタにしてエッセイを書く。犬を連れて歩いていると、お互い警戒心がやわらぎ、話が弾むようだ。けっこう人生まるごと聞き出している。「小さな村の物語」(BS日テレ)に出てくるイタリア人の人生もようみたい。執事あり、八百屋あり、園芸マニアあり・・・。野菜畑が広がるサンテラズモ島のオーストリア軍旧火薬庫を別荘に改築した弁護士もいる。

 ジュデッカ島には、パッラーディオのつくったレデントーレ教会[人口の3割を失ったペスト禍の終息に感謝して奉献された]の他に、国立古文書館、市立図書館などがあり、内田さんはその図書館の常連となる。この図書館は、外出できない修道女のために近くの修道院への図書を運んだり、Sacca Fisola島[ゴミの埋め立てでできた島で、公営住宅があり、様々な人種が住んでいる]の子供たちに本の読み聞かせを行なっていることを知る。

 フェニーチェ劇場近くのバールで知り合った仮面職人は、ジャック・ケルアックの『孤独な旅人』を読んで生まれ故郷をとび出したという。私もいつか読んでみよう。

 湿気の多いヴェネツィアでの洗濯物の乾かし方について、発情しているようなフェロモンむんむんの女性たちについて、Ponte delle tette (おっぱい橋、リアルト橋の西方にある)に面した娼婦の館について、その娼婦が履いていたPianella (英語ではChopine) という上げ底靴について、ヴェネツィアでただ一人の女性ゴンドリエーレについて、など。このアレックスについては新聞記事(https://www.italiaoggi.it/news/la-gondoliera-diventa-gondoliere-2189314)にもなっている。カリフォルニアで性転換手術を受けたって!! 内田さんは性的少数者としか書いていないけれど・・・。イタリアはいまだに保守的ですね。

 

 まだ読んでいない内田さんの本があるのでそのうちにまた。