この夏、仕事で伊勢神宮や出雲大社を訪れる機会を得た。いろいろ調べると、伊勢神宮の式年遷宮は持統天皇の時に始まったとある。持統天皇は、藤原京の造営と、歴史編纂事業、律令国家の整備を行なった人である。

春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣干すてふ天の香具山」という百人一首の歌でも知られる。もと歌(万葉集)は「春過ぎて夏来るらし白妙の衣ほしたり天の香具山」。

 それで、歴史小説でもひとつ、のつもりで手にとったのが、『朱鳥の陵(あかみどりのみささぎ)』である。それまでは板東眞砂子の本を読んだことはなかった。

 読み始めは難しかったので、しょっちゅうネットで検索せねばならなかった。新益都? あ、藤原京のことか、天武天皇の陵は八角形だったのか(図版もある参考ブログ→http://seiyo39.exblog.jp/18312499/)、天武天皇の元号は朱鳥(あかみとり)だったのか、など。

 でも途中からは探偵小説を読むようにスピードがアップした。持統天皇の周囲で次々に起こる連続死亡事件(?)。夫の天武天皇、大津皇子、草壁皇子、高市皇子・・・。その一方で、いくら万葉の時代の性が奔放だったとしても、歌人で知られる柿本人麻呂が早漏ぎみのエロおやじだなんて(?!) さらに、えっ、稗田阿礼って『古事記』の? 藤原史って、大宝律令を編纂した藤原不比等なの? アマテラスからニニギへの天孫降臨が、持統天皇から孫の珂留(軽)皇子への譲位と関わりがあるとは聞いていたけれど、このような連続殺人事件に仕立てていいものなの? 最後に息を呑んだのは、「白妙の衣ほしたり」って、マルシュアスのナマ皮かっ!!  ぞぞぞ〜っ!!! 白いわけないでしょう?  

 というわけで、歴史物語を読むつもりが、スリラー小説なのであった。とはいえおかげでこの時代を、内裏から庶民の暮らしまで、いきいきと脳裏に描くことができた。後で作者の板東眞砂子を検索したら、子猫殺しで世間を騒がせたことがあるとのこと。殺してはいないけれど、捨てたのだという話もでてきた。ご本人はもう夜見の国にいらしている。これだけの文才(構成力も筆致も)、もったいない気がした。