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トリガーポイント研究所のブログ

これまでの痛み治療でなぜ治らなかったのか、痛み治療はどうあるべきかを情報発信している非営利組織のブログです。


腰痛の原因が筋肉のトラブルなのに、「腰椎椎間板ヘルニア」や「脊柱管狭窄症」などの診断を受け、手術を受けて快癒している方がおられます。 そのような方を見ると手術という手段が有効のように思えます。また効果をあるから未だに手術が行われているとも言えます。


では、なぜ効果がないはずの椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の手術で、痛みが無くなる方がいるのでしょうか?

 まず次の資料を見て下さい。

症状 治療法 有効率 出典
1)腰下肢痛 試験切開 37~43% Spangfort EV 1972
2)顎関節痛 シャムトリートメント(※) 64% Goodman P et al 1976

(※)シャムトリートメント:みせかけの治療

これらはプラシーボ効果(偽薬効果)を示す例です。


1)の例は、腰下肢痛の患者さんに対して、試験切開だけを行い、治療はしなかった場合の効果を現しています。試験切開をしただけなのに、何と40%前後の有効率を示しています。


2)の例は顎関節症の患者さんに対して、見せかけの治療を行い、その後の経過を調べたものです。この例の場合は64%もの有効率を示しています。


プラシーボ効果とは効くはずのない薬を飲んでも、改善してしまう事がある現象の事で、信頼のおける研究では35%前後の有効率を示しています。


また、リウマチの専門医である日本医科大学の吉野教授は、その著書「「脳内リセット―笑いと涙が人生を変える」の中で、手術で行われる全身麻酔が、痛みを大幅に軽減するという事を述べられています。


【大笑いや手術に於ける麻酔は痛みをリセットする】


【研究内容】
落語家・林家木久蔵師匠を招いて、鎮静剤が手放せない重症の女性リウマチ患者26人に落語を1時間聞いて頂き、落語の前後で採血によって、痛みの変化、炎症を悪化させる物質インターロイキン6やストレスホルモンのコルチゾールの変化を調べてみた。比較対照のために、健常者の女性31人にも参加して頂いた。


【結果】
わずか一時間笑っただけで全員の痛みが楽になり、ある人はその後3週間も鎮痛剤なしというほどの劇的な効果が生じた。


「麻酔が脳内をリセットする」


吉野教授は、インターロイキン6が下がるもう一つの理由を突き止めています。それは、全身麻酔をかけると言うことです。
全身麻酔によって関節リウマチ患者さんのノルアドレナリン、インターロイキン-6、そしてコルチゾール値が見事に下がったのです。もちろん痛みも劇的に軽減しました。


このような事から、本来なら効果がないはずの椎間板ヘルニアなどの手術によって、痛みが無くなったり、大幅に改善する方がいても不思議はないのです。

③腰痛は筋肉を鍛えれば治る?

「運動不足ですね。腹筋や背筋を鍛えて下さい。」

⇒激しい腰痛を克服した作家の夏樹静子さんは、その経験を「椅子が怖い」という本に書かれていますが、夏樹静子さんも「筋力低下が原因」と言われ、筋力強化に数年努めますが痛みは軽くなるどころか増しています。

トリガーポイントは筋肉に過負荷を掛けたり、反復的に使用すると活性化します。

例えば大臀筋のトリガーポイントは長時間クロールで泳ぐことで活性化します。腹部や、臀部のトリガーポイントが痛みを起こしているケースでは、筋肉強化運動はさらにトリガーポイントを活性化させる可能性があります。

痛みと共に握力がなくなったり、脚の力が抜けたりすることがありますので、筋力の低下が痛みを起こしているように感じるかも知れませんが、トリガーポイントが起こす痛みによって筋力低下が起きています。

 【参考図書】 腹筋運動をすると腰痛になる 松尾毅著 アチーブメント出版刊

④椎間板ヘルニアが腰痛を起こしている?

「ヘルニアですね。これを除去すれば治ります」

⇒椎間板ヘルニアは椎間板が神経根を圧迫して痛みを起こすと説明されますが、実はそれでは説明できないことがたくさんあります。

1.腰痛のない人の中にもかなりヘルニアがみられる。
(無症状の椎間板異常)
痛みがないヘルニア

2.ヘルニアが治らなくても痛みが無くなることがある。

3.椎間板を除去しても痛みが治らない事がある。

4.ヘルニアが圧迫している神経支配領域と痛みの場所が異なることが多い。

5.神経の走行に沿って圧痛があるといわれているが、圧迫された所だけでなく、他のところに圧痛が発生するのは何故か?

6.神経根ブロックや硬膜外ブロックが効かないことがある。

⑤手術は痛みを除去する最も有効な手段?

「いろいろ治療して痛みが取れなければ最後は手術を行います。」

 ⇒日本ではまだまだ行われている椎間板ヘルニアの手術ですが、世界的な生理学者Patrick Wallは次のように述べています。

(前略)   

椎間円板の役割について外科医の混乱は、突出した椎間円板を取り除く手術の割合が、国によって大きく異なることに反映されている。

10年前に10万人あたり英国では100人、スウェーデンで200人、フィンランドで350人、米国で900人であった。この割合は現在下がり続けていて、神話がばらまかれて、少数の人の利益になるが、多くの人の不利益になるような不名誉な時代は終わった。
不利益をうけたある人たちは、手術の結果、明らかにいっそう悪くなった。

椎間板ヘルニアの手術は70年以上もの間行なわれてきた。もてはやされたこともあったが、疑問が増し続けている。ヘルニアの突出と痛みはそれぞれ独立していて、痛みの発現におけるヘルニアの突出の役割ははっきりしない。

以前この手術を熱烈に支持していたマイアミ大学 は、今ではこの手術をやめて、厳密なリハビリテーションのプログラムを採用している。

(後略)
(Patrick Wall PAIN The Science of Suffering)

腰痛、肩こり、関節痛などを総称して「筋骨格系疾患」と言います。そして前回のグラフが示しているように、その代表格は「腰痛」です。


また、腰痛が最も生活の質に影響を与えるため、さまざまな研究データも「腰痛」を取り上げたものが多くあります。そこで、ここでの説明では痛みの代表格としての「腰痛」を中心に取り上げて行きますが、腰痛以外の疾患で悩まれている方は、「腰痛」をその痛みに置き換えてお読み下さい。


ではまず、腰痛になった時によく言われること、つまり一般的に常識と思われている事を挙げて、それが本当に妥当な事なのかを検証してみましょう。


①腰痛は老化現象なのか?
②骨格に異常があるから腰痛が起きる?
③腰痛は筋肉を鍛えれば治る?
④椎間板ヘルニアが腰痛を起こしている?
⑤手術は痛みを除去する最も有効な手段?
⑥腰痛を起こした時は安静が一番?

①腰痛は老化現象なのか?

「歳ですね。うまく付き合って行きましょう」「若いのに腰が痛いなんて・・・!」

これはよく耳にすることですよね。しかし本当に腰痛は歳のせいでしょうか?

老化現象
(塚原純ほか,整形外科と災害外科,1985)
(山口義臣ほか,整形外科MOOK,1979)

上のグラフの緑の棒グラフは脊椎と脊椎の間が狭くなるという「椎間狭小」を表しています。またオレンジの棒グラフは骨に棘状の変形が生じる「骨棘形成」の年代別状況です。

この二つのデータが示すように、骨の変形は年齢が進むに連れて増えて行きますのでこれは老化現象と言えるでしょう。

二つの折れ線グラフの内赤い線は「腰痛の初発年齢」を年代別に表したものです。つまりいくつの時に腰痛を初めて経験したか?という事です。

このグラフから分かりますように、初めて腰痛を経験する年代は30代が最も多く、次いで40代、20代と続き、50代以降で初めて腰痛を経験する人は減って行きます。

また、青い折れ線グラフは「腰痛の保有率」です。つまり現在腰痛があるかどうかを問うたものです。こちらも30代が最も多く、そして40代、50代と年齢が進むに連れて減って行きます。

このデータは腰痛が加齢に伴って増えてはいない事を示しています。

②骨格に異常があるから腰痛が起きる?

「レントゲンでは異常がありません、まぁ・・・腰痛症ですね」

「腰痛症」というのは、X線やMRIで異常が見つからないにも関わらず、長期にわたって腰に痛みを感じる時につけられる診断名ですが、骨や関節に異常が無くてなぜ痛むのかの説明がない事が多く、湿布と痛み止めを処方されて「様子を見ましょう」という事になります。

下表のように椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症があっても、痛みが無い方も多くおられます。
この表は腰痛がない無症状の方に見られる椎間板の異常を示しています。無症状の人にこれだけの率で異常が見つかるのですから、腰痛で受診すれば、ヘルニアや椎間板の変性が見つかっても不思議はありません。

痛みがないヘルニア
(Boos N et al,Spine,1995)

また、椎間板の変性は僅か3歳の頃から起きているというデータや、10歳で無症状の子どもの約9%には椎間板の異常が見つかるという研究も存在します。

【研究1】
3歳~10歳で椎間板への血液供給量が減少し始め、軟骨終板にも亀裂が認められ、11歳~16歳では線維輪の亀裂や断裂といった椎間板構造の崩壊がみられた。(Boos N et al,Spine,2002)

【研究2】
無症状の10歳の小児154人について、腰椎椎間板のMRIスキャンを行い、14人にはL4-L5またはL5-S1のいずれかのレベルの椎間板に異常が認められた。

このように椎間板の変性はすでに幼い頃から見られます。
ですから腰痛で医療機関を受診すれば、かなり高い割合でヘルニアが見つかったり、椎間板の狭小が見つかったるはずです。その為、レントゲンやMIRで明らかに異常が見つかったからと言って、それが痛みの原因だと即断することはできないというです。

まず下のグラフをご覧下さい。腰痛や肩こりがほぼ右肩上がりに増え続けています。



日常生活や労働環境の機械化が進み、腰や肩への負担は減り続けているのに腰痛や肩こりを訴える人が増え続けています(一説によると現代人の身体を使う割合は戦前の人の1/50)


腰痛や肩こりで医療機関を受診してなかなか治らない人たちは、はり、灸、マッサージ、整骨院、整体院、カイロプラクティックなどに流れています。繁華街を歩いているとこれらの看板をあちこちで見かける事はご存じの通りです。


しかし、グラフが右肩上がりになっているということは、医療機関以外のこれらの施設でも、やはり腰痛や肩こりに対応できていないと言えます。では、なぜこのような事になっているのでしょうか?