腰痛、肩こり、関節痛などを総称して「筋骨格系疾患」と言います。そして前回のグラフが示しているように、その代表格は「腰痛」です。
また、腰痛が最も生活の質に影響を与えるため、さまざまな研究データも「腰痛」を取り上げたものが多くあります。そこで、ここでの説明では痛みの代表格としての「腰痛」を中心に取り上げて行きますが、腰痛以外の疾患で悩まれている方は、「腰痛」をその痛みに置き換えてお読み下さい。
ではまず、腰痛になった時によく言われること、つまり一般的に常識と思われている事を挙げて、それが本当に妥当な事なのかを検証してみましょう。
①腰痛は老化現象なのか?
②骨格に異常があるから腰痛が起きる?
③腰痛は筋肉を鍛えれば治る?
④椎間板ヘルニアが腰痛を起こしている?
⑤手術は痛みを除去する最も有効な手段?
⑥腰痛を起こした時は安静が一番?
①腰痛は老化現象なのか?
「歳ですね。うまく付き合って行きましょう」「若いのに腰が痛いなんて・・・!」
これはよく耳にすることですよね。しかし本当に腰痛は歳のせいでしょうか?

(塚原純ほか,整形外科と災害外科,1985)
(山口義臣ほか,整形外科MOOK,1979)
上のグラフの緑の棒グラフは脊椎と脊椎の間が狭くなるという「椎間狭小」を表しています。またオレンジの棒グラフは骨に棘状の変形が生じる「骨棘形成」の年代別状況です。
この二つのデータが示すように、骨の変形は年齢が進むに連れて増えて行きますのでこれは老化現象と言えるでしょう。
二つの折れ線グラフの内赤い線は「腰痛の初発年齢」を年代別に表したものです。つまりいくつの時に腰痛を初めて経験したか?という事です。
このグラフから分かりますように、初めて腰痛を経験する年代は30代が最も多く、次いで40代、20代と続き、50代以降で初めて腰痛を経験する人は減って行きます。
また、青い折れ線グラフは「腰痛の保有率」です。つまり現在腰痛があるかどうかを問うたものです。こちらも30代が最も多く、そして40代、50代と年齢が進むに連れて減って行きます。
このデータは腰痛が加齢に伴って増えてはいない事を示しています。
②骨格に異常があるから腰痛が起きる?
「レントゲンでは異常がありません、まぁ・・・腰痛症ですね」
「腰痛症」というのは、X線やMRIで異常が見つからないにも関わらず、長期にわたって腰に痛みを感じる時につけられる診断名ですが、骨や関節に異常が無くてなぜ痛むのかの説明がない事が多く、湿布と痛み止めを処方されて「様子を見ましょう」という事になります。
下表のように椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症があっても、痛みが無い方も多くおられます。
この表は腰痛がない無症状の方に見られる椎間板の異常を示しています。無症状の人にこれだけの率で異常が見つかるのですから、腰痛で受診すれば、ヘルニアや椎間板の変性が見つかっても不思議はありません。

(Boos N et al,Spine,1995)
また、椎間板の変性は僅か3歳の頃から起きているというデータや、10歳で無症状の子どもの約9%には椎間板の異常が見つかるという研究も存在します。
【研究1】
3歳~10歳で椎間板への血液供給量が減少し始め、軟骨終板にも亀裂が認められ、11歳~16歳では線維輪の亀裂や断裂といった椎間板構造の崩壊がみられた。(Boos N et al,Spine,2002)【研究2】
無症状の10歳の小児154人について、腰椎椎間板のMRIスキャンを行い、14人にはL4-L5またはL5-S1のいずれかのレベルの椎間板に異常が認められた。
このように椎間板の変性はすでに幼い頃から見られます。
ですから腰痛で医療機関を受診すれば、かなり高い割合でヘルニアが見つかったり、椎間板の狭小が見つかったるはずです。その為、レントゲンやMIRで明らかに異常が見つかったからと言って、それが痛みの原因だと即断することはできないというです。