南の島のティオ (文春文庫)/文藝春秋

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とある南洋の島国を舞台に、ティオ少年と彼をめぐるユニークな人々や不思議な出来事を描いた連作短編集。牧歌的な南国の風土の中に、西洋文明が入り込むことの必然性と悲哀を描いたところなどはいかにも池澤夏樹らしい文明観だが、それよりも特筆すべきは、神々や奇妙な人々が起こす小さな奇跡がとても美しく、しかもリアルに描かれていること。ガルシア=マルケスが生み出し世界中で流行したマジック・リアリズムの手法が、これほど自然に成功している例は少ないのではないか。そして読後感はあくまで爽快。子供向けに書かれた本らしいが、子供ばかりに読ませておくのはあまりにもったいない。
芽むしり仔撃ち (新潮文庫)/新潮社
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閉じ込められた場所からの脱出をテーマにした小説が、僕は個人的に好きなのかも知れない。安部公房の『砂の女』もそうだし、カミュの『ペスト』もそうだった。この本はもっと若いうちに読んでおくべきだった、と思う。
爪と目/藤野 可織
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すごく平凡で、いやな女を、とことん冷たい文体で描いた小説。日本人の作家というのはどういうわけか「いやな人間」を描くのが昔から異様に巧かった気がするのだけれど、この本ほど湿度と温度の低い表現はなかなか珍しい。ストーリーは平板で淡々と進んでいくのに、どこかホラー小説みたいな怖さが底流に続き、ラストで鮮やかに噴出する技巧はさすが芥川賞作家。個人的には、もうちょっと希望の感じられる本が読みたい、という気もするけれど。