地下にある喫茶店。
階段の下に設置されているジュークボックスからは
アダモの「雪が降る」が幾度も繰り返されている。
角の席にいる広告研究会のアイツが気に入った曲だとかで
終わる度にコインを突っ込んでいるのだろう。
向かいに座った彼女は階段を下りて来た友人を認めると
チラと眼で挨拶を送ってまた視線を中空に戻した。
学生で八割がた埋まった店内は煙草の煙がユラユラと層を作って揺れている。
「ねぇ午後の授業受けるの?」そう言ってコーヒーカップを口元に持って行くが
中味が殆ど無いのに気がついてそのままソーサーに戻した。
「どうしようかなぁ・・新宿にでも出てみるのもいいかもな」
「そっか、私は渋谷で買い物するわ」
授業がどうの、という質問に何の意味も無いのはお互いに知っている。
数十秒の後に聞いた「別れようぜ」の言葉にさえ、彼女の心の動きは見えなかった。
彼女はポットから角砂糖をひとつつまみ上げてカリっとかじった。
店内の喧噪に紛れる事なく、その音は案外な大きさで耳に届いた。
「うん、いいよ。潮時だったかもね、私たち」
残りを噛み砕き、コップの水で喉に流し込んでから彼女はバッグを手にした。
「じゃーね」
「おう、元気でな」
最近、角砂糖を見ていない。