【一番苦しい時に、自分を頼ってくれた。
そう考えることもできる・・・・・・、か。】
by漫画『バーテンダーVol.5』(原作:城アキラ、作画:長友健篩)
◇One for the Rord
漫画『バーテンダーVol.5』の第35話『One for the Rord』に次のようなシーンがあります。
~この日、主人公・佐々倉溜のバーを訪れたのは、雨に濡れた女性客。
女性:「雨やどりついでに一杯飲ませて」
佐々倉:「ご注文は」
女性:「もっと酔いたいけど、お酒は鼻について、これ以上飲みたくないわね。」
「出来なきゃ何でもいいわ。適当に強いものをちょうだい。」
「・・・人間なんて醜いわよね。」
佐々倉:「醜い・・・ですか」
女性:「そうやって作り笑いしてるあなただって、内心は嫌な客が紛れ込んだと思ってる。でも、それは口に出せない仕事だもんね。バーテンダーも人のイヤミに耐えて金を稼ぐクソッタレな商売か。」
「客は無茶なわがままを言うものよ。そのために金を払うんだもん。」
「みんな私を畏れる。この通り、口が悪いからね。でも畏れつつ、勝手な注文は次々と出してくる。」
そんな愚痴を垂れる女性に、佐々倉は、「今のお客様にぴったりな一杯だと思いましたので。」と、カクテル『ホット・ブル・ショット』を出しました。
ホット・ブル・ショットは、ビーフブイヨン(スープストックがなければキューブでもOK)を90ミリリットル温めてカップに入れ、ここにウォッカを45ミリリットル程度、お好みでウスターソースや胡椒等を少々入れて作るカクテルです。
ホット・ブル・ショットで冷えた身体が温まった女性は、少し照れながら、このように言いました。
女性:「さっきは悪かったわね。今日はおべんちゃらの忘年会やクソッタレなパーティーを3件もこなして来てね。つくづくクソッタレな自分が嫌いになったってわけ。」
それに対し、佐々倉はこのような話を始めます。
佐々倉:「お客様は『ワン・フォー・ザ・ロード』という言葉をご存知ですか」
「辞書には『別れを惜しんで酌み交わす一杯』とあります。では誰と別れを惜しむのか」
「時には自分を偽り、誤魔化しながら生きていくのが大人の世界です。それでも一日がいいことばかりとは限りません。
だから『ワン・フォー・ザ・ロード』、ロード=帰り道のために飲む、ワン=一杯。
バーの一杯で本当にサヨナラを言うのは、今日一日の嫌な自分、クソッタレな自分・・・かもしれませんね。」
女性:「・・・この一杯で、嫌な自分にサヨナラして気持ちを切り替えるってわけね。」
帰り際、「この年の瀬の最後に、私みたいな客が舞い込んで悪かったわね。」と言った女性に対し、佐々倉はこう言いました。
佐々倉:「それが偶然でも、一番苦しい時に、バーテンダーの自分を頼ってくれた。店の扉を押してくれた。・・・そう考えることもできますから。
それって、お客様のお仕事と同じですね。」
女性が帰った後、このやり取りを聞いていた常連客の来島美和がこう聞きました。
来島美和:「お客様と同じって・・・、あの人もバーテンダーなの」
佐々倉は、女性が持っていたダレスバック、別名ローヤーズバッグを見て、この女性が弁護士だと見抜いたのでした。
翌朝、事務所に出勤した女性弁護士は、秘書に今日の仕事の予定を聞いたところ、あまりの多さに、「クソッタレどうしてみんなテメー勝手なのよ。」と叫んだものの、昨日のバーでの佐々倉の言葉を思い出しし、「・・・と言ってはいけないか・・・。」と呟き、こう自分に言い聞かせます。
【一番苦しい時に、自分を頼ってくれた。そう考えることも出来る・・・・・・か。】
その後、女性弁護士は、ハードボイルド小説とお酒が趣味の秘書にこう聞きました。
女性弁護士:「『ブルショット』って知ってる」
秘書:「どっちのブルショットですか、先生。ミステリーそれともカクテル」
女性弁護士:「ミ・・・ミステリーの『ブルショット』それどんな話」
秘書:「それはですね・・・。クソッタレが口癖の強面のやり手、ただし背が低いのがタマに瑕。でも本当は心優しい弁護士が活躍するガブリエル・クラフトの80年代のミステリー・・・ですけど。」
このとき、女性弁護士は、佐々倉溜が、自分のことを全てわかった上で、ワン・フォー・ザ・ロードの話をし、ブル・ショットを出したことに気付きました。~
◇最後に
友達から、 「弁護士って、トラブルに巻き込まれている人や、犯罪者の弁護をする仕事でしょよっぽどメンタル強くないと、やっていけないよね」と言われることが、よくあります。
実際、相談者のお話を聞いているだけで、あまりの凄まじい人生に驚嘆し、私までヘトヘトになることは、多々あります。
また、多くの弁護士は、何十件という案件を同時にこなしているので、終電まで残業したり、土日祝日も出勤したりということはよくあることで、そんな多忙なときに、重い案件の依頼が来ると、気が滅入りそうになるときもあります。
実際私も、重い案件を多数抱え込み、夜ベッドで横になっていても、「明日のあの書面は、こう書こう。」とか、「証人尋問で、こういう聞き方をしてみよう。」とか、仕事のことばかりが頭を過ぎり、なかなか寝付けないことも多々あったのですが、そんなとき、ふと、本棚にあった『バーテンダー』を1巻から読み返し、5巻まで読んだところで、第35話の『One for the Rord』に辿りつき、胸を締め付けられました。
以前読んだときは、特に気にも留めず、読み進んだのですが、この時は、自分の状況とオーバーラップしてしまったのです
自分にとっては、数ある依頼者の中の1人に過ぎないかもしれません。
でも、依頼者にとってみれば、人生で滅多にないトラブルに巻き込まれている真っ最中。
中には、いろいろな事務所に相談に行って吟味した上で、私を選んでくれた人もいます。
弁護士は、依頼を受けたとき、必ず受任しなければならないという受任義務は課されていないので、多数の仕事を抱えていて受任する余裕がないときや、自分の苦手な分野の事件である場合、相談者と方向性などの意見が一致しない場合、通常の弁護士であれば誰も応じないような無理難題を押し付けてくるような場合などは、受任を断っても良いのです。
そうであるなら、最初の相談の際に、いろいろお話を伺った上で、受任を拒否できたのに、あえて受任した以上は、各案件全て、全力投球すべきなのです
依頼者は、トラブルに巻き込まれ、不安を抱き、法律事務所の扉を叩きました。
出来るだけ早く事件を解決するためには、必要最小限の時間で密度の濃い打合せのみを重ね、書類作成や相手方との交渉などに専念した方が良いのですが、依頼者は、ただ先行きを確認して不安を解消するため、弁護士と会話をしたいということも往々にしてあります。
その都度、同じことを聞かれることもあります。
それを毎回聞いていたら、その依頼者自身の仕事だけでなく、他の依頼者の仕事も止まってしまうことになりかねません。
でも、その依頼者は、苦しくて苦しくて、弁護士と話をして、不安を解消したいために、私を頼って、また電話をしてくださったのです。
【一番苦しい時に、自分を頼ってくれた。そう考えることも出来る・・・・・・か。】
そう思えば、「他の仕事もいっぱいあるのに・・・。」と思うことなく、一期一会の精神で、快く、依頼者一人一人にそれぞれ全力投球できます
重い案件がいっぱい飛び込んで、挫けそうになったとき、この言葉を噛み締めて、頑張っていきたいと思います
◇次回予告
次回は、久々に心理学のお話をさせていただきますので、お楽しみに
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございましたm(__)m
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