前々回、ペットに財産を事実上相続させる方法として、負担付遺贈という方法があるというお話をさせていただきましたが、今回は、その負担付遺贈と類似する負担付死因贈与という方法をご紹介させていただきたいと思います


◇負担付死因贈与


 死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与契約のことをいい、受贈者も一定の負担を負う場合を、負担付死因贈与といいます。

 前々回お話しした負担付遺贈と同様、ペットの世話をしてもらうかわりに、世話をしてもらう人に対して、財産を死因贈与するわけで、この「ペットの世話」が受贈者の「負担」に当たるのです


◇遺贈と死因贈与の違い
 

Q:では、遺贈と死因贈与は、どう違うのでしょうか

 この点、遺贈は、単独行為で、死因贈与は、契約であることが、最も異なる点とされています。
 単独行為というのは、一個の意思表示を要素とする法律行為で、遺言や取消、解除などがこれに当たります。
 これに対し、契約は、複数の対立する当事者の意思の合致を要素とする法律行為で、売買、贈与、賃貸借、雇用、委任、請負などがこれに当たります。

 わかりやすくいえば、契約は、買主が「この野菜を300円で売って。」と言っただけでは成立せず、売主が「良いよ。その野菜、300円で売るよ。」と言って初めて成立しますが、単独行為は、相手方に対して、「あの売買契約、取消すよ。」と言えば足り、相手方が、「嫌だ。」と言っても、効力は発生する点が、異なるのです。
 
 そうすると、死因贈与の場合は、契約なので、受贈者との間で契約を結ばなければ成立しないのですが、遺贈の場合、受遺者に確認を取らずに、遺言で一方的にすることができるので、遺贈者が死んで初めて、自分に対して遺贈がされたことを知ることも、有り得るのです。

 そのため、負担付死因贈与の場合は、ペットの世話を了解してくれる人に対して財産を贈与するので、さほど問題はないのですが、負担付遺贈の場合は、本当にペットの世話をしてくれるか、不安な面もあります。
 だからこそ、前回申し上げたように、負担付遺贈を記した遺言とは別に、あらかじめ受遺者と協議した上で、
「負担付遺贈に付随する事項に関する取り決めと、受遺者にペットの世話を確実に履行してもらうための念書」という趣旨で
 合意書を作成しておくのが望ましいのです。
 

 以上の法律行為の性質の違いに加え、負担付遺贈要式行為のに対し、負担付死因贈与不要式行為である点が異なります。

 どういうことかというと、負担付遺贈は、遺言という方式によってしなければ成立しないのに対し、負担付死因贈与は、一定の方式は要求されておらず、当事者間の口頭での合意などによっても成立するのです。
 もちろん、後から紛争になることを防止するために、負担付死因贈与も、書面によることをお勧めしますが・・・

 
 以上のように、遺贈と死因贈与は法的性質が異なるものなのですが、実は、死因贈与には、「その性質に反しない限り」遺贈の規定が準用されます(民法554条)。

 具体的に1つ例を挙げると、遺贈は、受遺者が遺贈者よりも先に死んだ場合、遺贈の効力は発生しない(受遺者の相続人に遺贈を受ける権利が相続されない)のですが、死因贈与の場合も、受贈者が贈与者よりも先に死ぬと、死因贈与の効力は発生しないので、受贈者の相続人が贈与を受ける権利を相続しません。

 通常の生前贈与であれば、受贈者が贈与者より先に死んだ場合は、受贈者の相続人が贈与を受ける権利を相続するのですが、死因贈与の場合にそうならないのは、遺贈の規定(民法994条1項)が準用されるためです。

 
◇ペットの世話の履行の監督

 さて、負担付遺贈の形式を選択した場合、受遺者がペットの世話をしていないことが発覚したら、相続人だけでなく遺言執行者がペットの世話の催告をして、それでも改善が見られない場合は、負担付遺贈に係る遺言取消すことを家庭裁判所に請求できるということを前々回お話ししました。

 遺言執行者とは、遺言者がした遺言の内容を実現するために選任される者のことで、相続人に遺言の執行を任せたのでは遺言の実現が困難になるような事情がある場合は、遺言者があらかじめ遺言によって遺言執行者を指定している場合も多くありますが、遺言によって指定されていない場合は、利害関係人家庭裁判所に選任することを請求することもできます(民法1010条)。

 この遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言執行に必要な一切の権限を与えられており、相続財産に関して訴訟を提起する場合や訴訟を提起された場合、訴訟の当事者(法定訴訟担当)となることも予定されているので、一般的には、弁護士、司法書士、行政書士などが就任することが多いですが、信託銀行などの法人が就任することもできます。

 遺言執行者が選任されている場合は、この遺言執行者に、ペットの世話が適切になされているか、監督させれば良いわけです。
 監督といっても、逐一世話の方法を指示するというものではなく、遺贈された財産がペットのたえに使われているか否かを調査し、ペットの世話をするよう催告する程度ですが、先ほど申し上げたように、遺言執行者には、負担付遺贈に係る遺言を取消すことを家庭裁判所に請求する権限があるので、その遺言執行者からの調査や催告は、受遺者にとって良いプレッシャーになるわけです


Q :では、負担付死因贈与の場合にも、ペットの世話の監督は可能でしょうか

 この点、遺言執行者に準ずるような者は民法に規定されていないのですが、「契約自由の原則」により、債権契約については、公序良俗強行法規に反しない限り、当事者が自由に契約内容を決定できます。
 そこで、死因贈与契約書において「死因贈与執行者」を指名し、ペットの世話を履行しない場合は、死因贈与契約を解除できる権限を「死因贈与執行者」に付与しておく方法があります。
 この「死因贈与執行者」も、弁護士司法書士行政書士等を指名するのが望ましいでしょう。


◇その他の方法

 以上のように、ペットに財産を与える方法としては、前々回お話しした遺言による負担付遺贈と、今回お話しした負担付死因贈与が多く使われますが、その他にも、負担付生前贈与の方法もあります。
 これは、長期の病気療養の必要などから、生前からペットの世話をお願いしたい場合には有用で、この場合も、「負担付生前贈与執行者」を指定しておく方法で、ペットの世話が適切になされているか監督することも可能です。
 
 また、ペットに与えたい財産を信託会社信託銀行に運用してもらい、その運用した財産をペットの世話に用いる方法もあります。
 信託を受けた法人が直接ペットを世話しても良いですし、ペットを世話する受益者を指名しすることもできます。
 この場合は、信託監督人を指定して、ペットの世話が適切になされているかを監督することも可能で、動物愛護団体を信託監督人に指定するような例もあります。


◇最後に

 『法律コラム(民事編)Vol.6~相続能力①(胎児)』と『法律コラム(民事編)民法Vol.6~相続能力②(ペット)』で相続能力のお話をメインでさせていただいたのですが、ペットの話が出たのをきっかけに、前回の『法律コラム(刑事編)Vol.4~動物の位置付け』と今回の『法律コラム(民事編)Vol.7~遺贈と死因贈与の違い』まで、ペットにまつわる法律のお話を展開させていただきました 

 「ペットに財産を相続させたいんだけど・・・」という相談も、六法全書を文面どおりに読んだら、「無理です」という答えしか返ってこないんですが、そこで頭をひねって、依頼者の意向に近づける方法を考えるのも、弁護士を初めとする法律実務家の仕事なのです

 今後も、こういった身近な法律問題の記事もいっぱい書いていこうと思っておりますが、読者の皆様からのリクエストがあれば、可能な限りお答えしようと思っておりますので、扱って欲しい内容がありましたら、メッセージを送って下さい


 本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございましたm(__)m 
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