一昨日(平成24年7月3日)は、千葉地裁佐原支部での弁論準備期日に出頭してきました。
 東京都豊島区にある私の事務所からは、2時間ちょっとの旅・・・。

 着いてみると、漫画『
家栽の人』に出てきそうな、ほのぼのした感じの裁判所でした
 

 千葉地裁佐原支部
 
 実は今回の千葉地裁佐原支部での訴訟は、私が弁護士になって初めて被告側の訴訟代理人として担当する事件なのです
 しかも、これまで担当してきた事件と毛色の違う請求異議訴訟・・・。

 請求異議訴訟については、また日を改めて解説記事を書かせていただこうと思います
 

 それはさておき、今回は、法律関係の番組や、弁護士等をテーマにした漫画などで時々出てくる著名なテーマなので、ご存知の方も多いかもしれませんが、隣人トラブルのお話をさせていただこうと思います。


◇隣家の柿

Q:隣家の庭に生えている柿の木の枝が、塀を越えて侵入してきた場合、塀を越えた枝に実っている柿を採って食べたら、違法ですか
 
 民法には、このように規定されています。

 《民法233条1項》
  隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。

 これによると、塀を越えた部分の枝は、切ってくれと隣人に請求することができるだけなので、勝手に枝を切ってはいけません。
 これは、柿の実だけ取る場合でも同様です。

 
したがって、例え塀を越えて侵入してきた柿であっても、隣人に無断で取ってしまえば、違法になり、損害賠償請求の対象になります。

 もちろん、柿1つの価格の損害賠償請求訴訟を提起するような奇特な人はいませんので、あくまで法理論上の話ではありますが・・・。

 また、民法上、勝手に切って良いとは規定されていないので、勝手に枝を切れば、刑事上も、器物損壊罪(刑法261条)に当たるし、勝手に柿を採って食べれば、窃盗罪(235条)に当たります。

 ちなみに、枝が境界線を越えて侵入してきたら、直ちに切除の請求ができるのか、それが侵入してきたことによって何らかの具体的な被害が被ったり、被るおそれがある場合でないと切除の請求ができないのかは、争いがあります。

 この点、下級審の裁判例(新潟地判昭和39年12月22日下民集15-12-3027)は、枝の越境により枝の切除を請求できる要件として、「単に枝が越境しているだけではなく、それに加えて、枝の越境により、落葉被害が生じている或いは生じる虞があるなど、何らかの被害を被っていたり、被る虞があること」を要求しています。

 お互いの権利がバッティングする場面においては、民法を初めとする民事実体法は、受忍限度を越えた侵害に対して、法的措置を発動することとしているので、何ら被害もないのに、法を形式的に適用して一方的に権利のみを主張する人に、法は助力してくれないということなんですね

 なお、請求する相手方は「所有者」なので、隣人が賃借人の場合はご注意下さい 


◇隣家の竹から生えた筍

Q:では、隣家の竹の根が土中から塀の下を越えて侵入してきて、筍が生えてきた場合、その筍を採って食べたら、違法ですか

 民法には、このように規定されています。

《民法233条2項》
 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。


 これによると、竹の根が土中から塀の下を越えて侵入してきて、筍が生えてきた場合、その筍は、勝手に採っても良いことになります。

 
 このように、民法は、枝と根で異なる規定をしていますが、その理由は、枝の方が根よりも高価なことが多いからと説明されています。一般論としてはそうかもしれませんが、筍と柿で比較してしまうと、大きな違いはあるかは疑問が残るところですね・・・
 
 いずれにせよ、以上の規定によると、自分の敷地に生えてきた筍を勝手に採って食べても、違法ではないので、損害賠償の対象にもなりませんし、刑事上の罪にもなりません。

 もっとも、枝が越境した場合、単に越境しただけでなく、何らかの被害を被っていたり、被害を被る虞がある場合でないと、枝の切除を請求できないとする新潟地裁の裁判例をご紹介しましたが、この裁判例の趣旨に照らすと、根を切除することで、竹木自体が枯れてしまうような場合は、その根によって、こちらが具体的な被害を被っているか、被害を被る虞がないと、根を切除した行為が、権利の濫用に当たるとして、損害賠償請求をされる場合もあるので、ご注意下さい

 《民法1条3項》
  権利の濫用は、これを許さない。

 民法233条によれば、枝の場合と異なり、隣家から侵入してきた根は、原則として切除する権利があるのですが、特に被害を被ってもいないし、被る虞もないのに、権利だからといって切除して、その結果、竹木を枯らすなどして、隣家に被害を生じさせるまで法は予定していないということなんですね


◇最後に

 今回、民法によれば、「自宅に侵入してきた柿は勝手に採る権利はない。自宅に侵入してきた筍は採る権利がある。もっとも、筍についても、権利の濫用として許されない場合がある。」というお話をさせていただきました。

 「権利は絶対である」という考え方を貫く方もけっこういらっしゃいます。
 これは、国家に対する関係で、権利は絶対的に保障されなけばならないという理念としては正しいのですが、私人同士の関係で、自分の権利のためなら、他者の権利は無視又は侵害すらしても良いということにはなりません

 給食費は払わないが、給食は食べさせろというモンスターペアレンツの例を待つまでもなく、そのような権利の暴走が、日本のいたるところに存在していることは、非常に嘆かわしいことです

「自由」や「権利」を主張するときには「義務」、「ルール」そしてある意味での「リスク」を負うのは当たり前でしょ。
 でも、そういうのを抜きにしての「自由」が横行しているよね。

   by北野武


 ノーブリス・オブリージュ(高貴なる者の義務)という言葉がありますが、権利には義務が伴うこと、自由には責任が伴うことを理解して実践し、他者を尊重し、自分の権利や自由のために他者を侵害しないという配慮ができるのが、洗練され、成熟した高貴な魂を有する市民だと思います。

 私は、そんな
正直者たちのために、一生懸命身を粉にして働きたいと思います
 


 
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございましたm(__)m 
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