関東大震災の記~vol.17 | 風景回廊scenicGALLERY~独断と偏見による視覚的美意識の創造と考察

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低音に我が身ユダネル日々在りき(笑)
創作活動の記録
なんとなく のほほん・・て、感じッス。

(一部読みやすいように、加筆・文体の変更をしてあります。)


それを見るなり、栃木県や秋田県、北海道の友達は

「君は、この汽車へ乗り給え。僕等は、しかたないから日暮里迄 歩いて行くから」

と云うので

僕は、どこへ乗ろうかと探して 或る客車へ飛び乗ったが、中へ這入ることは出来ず

片手にバスケットを持って片手で掴まっているのでは、とても堪えられないからと思ったので

直ぐ飛び降りてしまった。


そして、プラットホームへ帰ってみると、もう友達は居なかった。

僕等を頼りにしていたらしい三十歳前後の婦人も見えなかった。

もう皆行ってしまったのかと思うや、田端迄でも行こうとして 僕は直ぐ歩み始めた。


新宿駅に汽車を待った避難民は、皆乗ることも出来ず、さりとて何時来るかもしれない

乗ることも出来ない汽車を待つ気にもなれず、

数知れない避難民は、鉄道伝いに引きもあえず、而(しかれど)も美もなく醜もなく力の限り歩いた。

僕も、その一人だった。



無論、話し相手は無い。

新宿の夜店に、島袋君と手を採った時とは 想像もつかない打って変わった有様だった。


太陽は容赦なく照りつけた。鉄路を辿って 若い男も女も傍見もふらず

欲も得もなく一生懸命に歩き続けた。


僕は、枕木を拾うて 大股に歩いたが、少し歩いて行くとバスケットを提げた手が疲れて来る。

薄く減った下駄が、ややもすると割れやしないかと気遣われたので

傍らの芝生に荷物を置き、単衣物を脱いで それを畳み

バスケットと一緒に背負った方が好いだろうと思ったので、三尺にハンケチをつないで

それで背負ってしまった。

誰が何う見ようが、そんな時ではなかった。又、誰も見る者もなかった。


それから下駄を脱いで手に持ち、コウモリをついて

今度は炎天に焼けた枕木の上を裸足で歩いた。

・・・両側には、崩壊した家屋が沢山あった。


続く


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