関東大震災の記~vol.10 | 風景回廊scenicGALLERY~独断と偏見による視覚的美意識の創造と考察

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低音に我が身ユダネル日々在りき(笑)
創作活動の記録
なんとなく のほほん・・て、感じッス。

$風景回廊scenicGALLERY~独断と偏見による視覚的美意識の創造と考察-新聞01
九段坂を上って行くと、大勢の人が列を作って
玄米のお握りを頂いていた。

僕らは、お腹も空かなかったので
お握りは頂かなくてよかった。

道の左側に建てられた品川伯の銅像は
首は前に、胴体は後ろにと 落っこちていた。

僕らは、その後ろに回って、緑色の濠(ほり)に面した芝生の上に
腰を下ろして休んだ。
その前には、一段と低い所に 坂になった電車線があって
一台の電車が留まっていた。



僕らは手拭いの端やズボンのポケットに入れて持ってきた
ナイフを出して、又調べてみた。
そして、気に入らないモノは その前の方に捨てた。

「あっ!これ煙草じゃないか?」
と、山本君が
足元からゴールデンバットの箱位な物を取り上げた。

「おや?なんだろう、馬鹿に重いぞ!」
と云って開いてみると
そこに出たものは、意外にもピストルの弾丸だった。

「おやおや君!こりゃピストルの弾丸だよ!」
と云われて
「何!ピストルの弾丸?どう、見せ給え!」
と、手に取って見ながら怪しげな顔をした。

その弾丸は交番へ届けることにして、又
僕らは、得意げにナイフをいじくっていた。



暫くしてより、交番へ行った山本君が帰って来た。

「やぁ、馬鹿見っちゃったよ」
「どうしたんだ?」
「いや、もう何処の何と云う者で どうしたんだなどと、名前迄すっかり聞かれちゃったんだぞ!」
「ほかには何んとも云わなかった?」
「うん、他には何んとも云わなかったんだよ!」

弾丸のことは、それで済んだ。



僕らは、又ぼつぼつと帰ることにした。
銅像の後ろを出て、靖国神社の方へ歩いた。

沢山の石燈籠は皆倒れたのに、あの高い大村益次郎の銅像や
大鳥居は、よく倒れなかった。

僕は初めて、あの社の前を通ったのだが
友達と一緒だったので参拝する暇もなかった。

電車道に面した塀も倒れていた。
僕らは、何時も 電車で行くような長い道を歩いていた。
濠を渡った頃、北の方を向くと 陸軍士官学校の玄関みたいな所が
ガクッと前へ垂れ下がっていた。

濠に沿った路面へは、大きな亀裂が いっぱい生じていた。

続く
(一部読みやすいように、加筆・文体の変更をしてあります。)