椎の香やけふ斎場に煙なし
「方円」2010年8月号雑詠掲載。
30代後半に詠んだ句。この句を詠んだ場所ははっきり覚えていないが、恐らくいつも歩く散歩道近くの山。椎の花が香る中、向こうの山に斎場が見える。後年、この斎場で両親のお骨を拾うことになるのだが、この日はその斎場から煙が上がっていなかった。命を見送る行事が、今日はない。それだけで、何とも言えない安心感を感じて詠んだ句。
今見返して気づいたが、実はこの句、用法に誤りがある。「椎の花」は夏の季語。「椎の実」なら秋の季語。なので「椎の花」なのか「椎の実」なのかはっきりさせる必要がある。上五を「椎の花」にしても、花の香りが見えないこともないが、香りを前面に押し出すには、インパクトが少し弱い。「椎の花香る斎場煙なし」だと、斎場がよりクローズアップされてしまう。結局のところ、今回紹介した表現方法がより当てはまるという事で、ボツにならずに「方円」に掲載されたのかもしれない。特に17文字しかない世界。本当に言いたいことをより簡潔に、より鮮明に表すのに、今でも四苦八苦している。
(絵はAIによる創作です)
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