元句:今日明日の狭間に虫の独りかな
校正後:今日明日の狭間に虫のひとつごゑ
「方円」2003年11月号雑詠掲載。ちょうど20年前に詠んだ句。
今まで、似たようなシチュエーションの句をいくつか詠んでいる。この句はその始めの句かもしれない。今日の11時59分を1分過ぎると明日になる。人間の世界では、便宜上そう決まっているが、自然界にそういう縛りはない。当然の事なのだが、特に時を刻むという営みもなく、今日から明日に、流れるように変わっていく。そんな時間の経過の真っ只中に、虫の声が聞こえる。それも1匹だけ。彼らに今日明日という感覚はなく、ただ鳴いている時間が今日と明日の境目だった。それだけ。人間の生活との大きな違いを発見できたような気がして詠んだ句。
さて今回は、故・中戸川朝人氏による校正。元句では、今日から明日に変わろうとする時間に虫が「いる」という事を強調するべく、下五に「独りかな」と切れ字を使用している。これは後から教わった話だが、「や」や「かな」という切れ字は、言葉を強調する中でも最大限強調する時に使用するもの。そう考えると、「独りかな」はやや言い過ぎた感がある。校正後の句を見ると、虫が「いる」を「鳴いている」に変えて、声を存在とする手法をとっている。そこに一工夫加えて、ちゃんと「独りで鳴いている」という事がわかるようにするのと同時に、きつめの言い方を和らげている。こういう日本語の使い方をしたい。実は20年間ずっと悩んでいるのだが、少しずつ語彙力を増やしていこうと思っている。
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