梔子に振り向く程の微風かな

 

「方円」2022年9月号円象集掲載。

歳時記によれば、この句は本来あまり出来は良くないらしい。梔子は花なら夏の季語、実なら秋の季語とそれぞれ分かれるので、花なら花とわかるように詠む必要があるとされている。しかし、私にとって梔子と言えば花の事。電車で通勤通学をしていた頃、必ず通るお宅の庭先に咲いていて、毎年この時期になるといい香りが迎えてくれる。そこを通るのが、夏の楽しみでもあった。最近はめっきり電車を利用しなくなったが、ある時不意に香る事があった。ちょうどそよ風が吹いて、私に梔子の香りを届けてくれた。久し振りにこの香りを味わった。そんな思いで詠んだ句。風が運んだ花の香りに振り向いたという事で、間接的に花を表しているという解釈で、ご容赦頂きたい。

宮崎駿監督の最新作、「君たちはどう生きるか」が封切り。宣伝はチラシ1枚のみ。キャストもストーリーも何もかも封切り当日まで秘密という、ジブリ作品としては極めて異例なもの。今までは動く予告編などで創造力を膨らませて、早く劇場で見たいと思わせる手法だったが、今回のような、何もかも謎に包まれた映画という宣伝方法も、これはこれで有効なのかもしれない。要はこっちに向いてくれさえすればいいという事か。そう考えたら、この句のように、そこに梔子が咲いているが、誰も振り向かない。風が吹いて初めて香りに気が付くという、ほんのわずかな注目という手法を有効に活用している自然というものに、敬意を表したい。

 

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