尺蠖の頑なに枝演じ切る

 

「方円」2022年8月号円象集掲載。

尺蠖は、シャクガ科の幼虫の総称。いわゆる尺取虫の事。種類によっては「土壜割」とも呼ばれる。この虫は体をぴんと張って、枝に擬態する事で身を守る。人間でも見分けが付きにくいほど巧妙に化けるのだが、私が見た擬態は、残念ながら完全にばれていた。ガレージの扉に枝が生えてくるはずがないのだ。しかも黒い門扉から茶色の枝。引っかかっているのではなく、生えていたのだから、すぐに擬態だと分かる。それでもこの虫は擬態をやめない。自分が生きるために必死になっているのだが、ピントがずれているおかしさを詠んだ句。

彼らはまっすぐ伸びる固いものに出くわすと、それを木と思うようだ。そして、外敵から身を守るため、反射的に枝になる。ただそれだけの事なのかもしれないが、見方によっては、「自分は生きるために枝になるんだ」という信念のもと、見事に枝を演じ切る。終始一貫していて心地よい。これが人間だと、「こんな事をしても絶対にばれる。ばれたらただで済まないし、自分は何をやっているんだと虚しくなる」などと様々なマイナス面を考えて、結局枝を演じる事は出来ない。ただ、そんな人間にも、自分はこうやって生きるという信念を持ち合わせている事だろう。尺蠖の場合は、その信念を貫く方法が、が枝になるという擬態だというだけの話。人間も、信念さえあれば、邪念を捨てる事は不可能ではないはずだ。

 

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