この土に立つが誇りと種案山子

 

「方円」2021年6月号円象集掲載。

「種案山子」とは、苗代に種をまいた後、鳥が啄むのを防ぐ目的で立てられる案山子の事。単に「案山子」だけなら秋の季語だが、「種案山子」は春の季語として使われる。いわば生まれた時と育った後、それぞれ見守る役がいる。きちんと役割分担があるのが面白い。4月になれば田んぼも田起こしが始まり、苗代で苗を育て始める。そこに登場する種案山子。その表情は変わらずポーカーフェイスだが、この春も苗の見守り役を任された事に対する喜びと誇りのようなものを、その立ち姿に感じて詠んだ句。

社会人になってから今まで、私は常に「就職活動に失敗した」と考えて、仕事に関して悲観的に感じて過ごしてきた。今までお世話になって来た企業の皆さんに対して、ずいぶん失礼な考え方だったと、今なら思う。与えられた仕事に誇りを持つと言うより、自分の今置かれた立場に誇りを持ち、持てる能力を精一杯発揮する。至極当たり前の話だが、恥ずかしながら、今までそれが完全に出来ていたかと問われれば、答えはノーだ。常に自らを高めなければ、同じことの繰り返し。振り返ってみて、自分は何を遺したか、答えに窮する事になるだろう。能楽には「後見」というものがある。それは舞台全体を見て、進行を監視する役の事。万が一シテが舞台で倒れたら代役を務めるなど、全てにおいて知識と技術が必要とされる。4月になり、立場が変わった今、こうしたことが求められるのだという事を考えておきたい。

 

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