人思ふ心は捨てず更衣
「方円」2020年7月号円象集掲載。
「更衣」で「ころもがえ」と読ませて、夏の季語として使われる。そもそもの起こりは平安時代の宮中儀式と歴史は古い。もともとは旧暦四月一日に綿入れから袷に着替え、五月五日に袷から帷子へ着替えた。十月一日は「後の更衣」と言い、また冬の衣装に戻るという習慣があった。今と違って厳然と日付が決まっていた。今は行事として一斉に行うものではないが、ちょうど今が気候が変わり、暑くなってくる頃。それに合わせて、ネット句会で兼題として出たのが、この「更衣」だった。私の勝手なイメージとして、暑くなるとうっとおしくなってくる重たい上着をここぞとばかりに脱ぎ捨てるという感覚がある。そんな中でも、思いやりや人の心は捨ててはいけないと、やや情緒的に感じて詠んだ句。
この句を詠んだのは2020年。最初に緊急事態宣言が発令され、町から人が消え、人は得体の知れない恐怖に陥り、ストレスから身近な感染者や疑いのある人、さらに医療関係者までターゲットにした言葉の暴力が一部で横行していた時期。今のネット社会ならではの現象が起こっていた。以前から言われていたが、顔の見えない者同士、何者かも名乗らない環境にあっては、人への配慮がお留守になる。そんな時にこの病気。誰かを不満のはけ口にしたくて仕方がないという衝動に駆られる。気持ちは分からなくもない。甘いかもしれないが、人間は思いやりの動物だという事を、ここで再認識する必要がある。
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