独り身の塒にひとり鉦叩

 

「方円」2012年11月号清象集掲載。

この時期になると、我が家の庭からも虫の声がよく聞こえる。「チン・チン・チン」と短く鳴くのはカネタタキ。好きな季題でよく取り上げている。ある時、そのカネタタキの声がひときわ大きく聞こえる時があった。近くにいるらしい。ふと自室の壁に目をやると、彼は目の前にいた。人前では鳴かないのか、暫く壁に張り付いたままだったが、じっと見ていたら不意に鳴いた。パートナーを探しているのか。ならば残念ながらここでは巡り会えないだろう。短い一生の間にこんな所に迷い込んでしまった哀れを表現した句。

自室を「こんな所」と表現してしまったが、虫はいかなる場所に来ても「ここはイヤ」「ここはダメ」と選んで避けてはいない。人家に迷い込むのも、打たれるのも、そこで力尽きるのも、うまく逃げるのも、その虫その虫に与えられた運命。どこであろうと必死に生きている。そんな一生懸命な人生を抱える虫と、一瞬の間だけでも生活を共にできた。特段それで変わったことはないが、偶然続きの人生の一つの偶然として、確実に人生の中に取り込まれている。

 

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