ある日、私は、日系文化会館で行われる「一世デー」のボランティアをすることになった。これは、日系の70歳以上の方々を招いて行われるパーティーだ。

 

トロント在住者のみでなく、バンクーバーなどカナダ全土から集まる。戦時中の迫害を味わった1世だけでなく、戦後移住者も対象だ。(39トロントの日系カナダ人・多文化社会の中で、参照)

 

この日、日本語教育に関する講演会も同会館で行われた。例年はそれぞれ違う日に開かれるが、今年は同じ日になってしまったらしい。

 

以前のバーベキューパーティーのボランティアで会った戦後移住者の木原さんが、今回はボランティアがたくさんいるから(20人ほど)、興味があるなら講演会のほうに行ってきていい、と言ってくれたので、まずそっちに行かせてもらった。

 

講演会の会場である会館の2階に向かう途中(一世デーのパーティーは1階)、バーベキューパーティーのときにコマの回し方を教えてくれた日系の直人君に会った(38日系文化会館でのバーベキューパーティーのボランティア、参照)。彼はその講演会で、JICAで研修生として日本へ行ったときのことを発表し終え、帰るところだった。

 

講演の内容は、どのように日本語を子供たちに継承していくか、そのために赤ん坊の頃からどう育てていくか、ということだった。

 

学校に行き出すと子供たちは英語で話すようになり、何もしなければ、そのまま日本語は忘れてしまう(ある中国系カナダ人の知人は、5歳までは中国語は完璧だったが、小学校に上がり、家でも学校でも英語で話すようになると、中国語はほとんど忘れてしまって、今はあまり中国語は分からないと言っていた)

 

それに、日本では自然に覚えられることも、カナダでは覚えられないし、間違って覚えてしまうと、日本にいるときのように環境の中で間違いに気づいて修復することも難しい。

 

小さな子供を持つ母親が多く参加していたようだった。このトロントでは、そうして意識していかなければ、日本語は残らないのだ。

 

直人君やその弟の正也君は、一緒にコマ回しをしたとき、英語のほうが得意なんだろうことは感じられたが、2人とも普通に日本語を話していた。正也君は、ほんの少しだが、日本語を理解しきれていないのかな?と感じるときもあったが、直人君の方は、生まれも育ちも日本だと思えるほど、本当に流暢だった。

 

子供をバイリンガルに育てることがそんなに難しいとは思わなかった。直人君はJICAの日本語学校生徒研修に行ったくらいなのだから(カナダからは4人参加したらしい)、日系の子供たちの中でも特に日本語ができる子だったのだろう。