昔日
思い出せば、優しい記憶だ。
物心がついた時から父親の記憶はなかったけれど、穏やかで温かい母親と元気いっぱいで我侭で、でも優しい兄。
早くに両親を亡くしても明るいウィンリィと、厳しいけれど色々気を使ってくれるピナコばっちゃん。
…そんな彼らに囲まれて、本当の家族のような、温かな日々。
いつまでも、ずっとその幸せが続くと思っていた。
そう。
ずっと、幸せであるはずだと、信じて疑わなかった。
…幸せは、掴まえていないと離れていってしまうものなのに。
「アル?」
自分を呼ぶ声にアルフォンスは自分を取り戻した。
時刻は真夜中で、兄であるエドワードも眠り込んでいた筈だ。
…しかし、アルフォンスは鎧の身体になってから、眠りを必要としなかった。
兄を始めとする生身の肉体を持つ人間が眠っている間、アルフォンスは時間を持て余していた。勿論、錬金術書を読みふけったり、何かを考え込んでいると時間なんて苦にならない。
ただ、少し寂しく思うのだ。
眠ることで、悲しみや苦しみを忘れることが出来るのに、自分にはそれが叶わぬことを。
兄の寝息を耳にしながら、一人考え込んでいると、世界が自分独りになったような、そんな恐怖に捉われるのだ。
思考の海に、呑まれそうになる。
…しかし、その恐怖を払拭してくれるのも、その兄なのだ。
エドワードの寝息が、自分を孤独に追い落とすのならば、自分の生を実感させてくれるのも、エドワードしかいない。
同じ過去を共有してきた兄だけが、きっと同じ苦しみを持っているから。
「何でもないよ、兄さん。…ほら、ちゃんと毛布かけて寝ないと、風邪ひいちゃうよ。」
まだ寝ぼけ眼のエドワードに、ベッドから落ちかかっていた毛布を掛けなおす。
アルフォンスのその行動に、寝ぼけている兄は、ううん…と生返事を返しながら、再び眠りの淵へと戻っていった。
「兄さん。絶対、元に戻ろうね。」
そして、ウィンリィ手製のアップルパイ、一緒に食べようね。
眠り続ける兄に向かってそう呟くと、エドワードが微かに微笑んだような気がした。
Fin.
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鋼の錬金術師、エド&アルのエルリック兄弟SSでした。
静かな決意と、兄弟の絆の深さを表したかったんですが………
賞味15分程度ではそれも叶わなかったようです(´ヘ`;)
物心がついた時から父親の記憶はなかったけれど、穏やかで温かい母親と元気いっぱいで我侭で、でも優しい兄。
早くに両親を亡くしても明るいウィンリィと、厳しいけれど色々気を使ってくれるピナコばっちゃん。
…そんな彼らに囲まれて、本当の家族のような、温かな日々。
いつまでも、ずっとその幸せが続くと思っていた。
そう。
ずっと、幸せであるはずだと、信じて疑わなかった。
…幸せは、掴まえていないと離れていってしまうものなのに。
「アル?」
自分を呼ぶ声にアルフォンスは自分を取り戻した。
時刻は真夜中で、兄であるエドワードも眠り込んでいた筈だ。
…しかし、アルフォンスは鎧の身体になってから、眠りを必要としなかった。
兄を始めとする生身の肉体を持つ人間が眠っている間、アルフォンスは時間を持て余していた。勿論、錬金術書を読みふけったり、何かを考え込んでいると時間なんて苦にならない。
ただ、少し寂しく思うのだ。
眠ることで、悲しみや苦しみを忘れることが出来るのに、自分にはそれが叶わぬことを。
兄の寝息を耳にしながら、一人考え込んでいると、世界が自分独りになったような、そんな恐怖に捉われるのだ。
思考の海に、呑まれそうになる。
…しかし、その恐怖を払拭してくれるのも、その兄なのだ。
エドワードの寝息が、自分を孤独に追い落とすのならば、自分の生を実感させてくれるのも、エドワードしかいない。
同じ過去を共有してきた兄だけが、きっと同じ苦しみを持っているから。
「何でもないよ、兄さん。…ほら、ちゃんと毛布かけて寝ないと、風邪ひいちゃうよ。」
まだ寝ぼけ眼のエドワードに、ベッドから落ちかかっていた毛布を掛けなおす。
アルフォンスのその行動に、寝ぼけている兄は、ううん…と生返事を返しながら、再び眠りの淵へと戻っていった。
「兄さん。絶対、元に戻ろうね。」
そして、ウィンリィ手製のアップルパイ、一緒に食べようね。
眠り続ける兄に向かってそう呟くと、エドワードが微かに微笑んだような気がした。
Fin.
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鋼の錬金術師、エド&アルのエルリック兄弟SSでした。
静かな決意と、兄弟の絆の深さを表したかったんですが………
賞味15分程度ではそれも叶わなかったようです(´ヘ`;)