突然ですが、「~次第」の用法についての話です。
「次第」という語には色々の意味合い・用法がありますが、ここでは、下記辞典の赤字の項にあるように、「満員になり次第締め切る」といった用法に関して書きたいと思います〔見出し語用例中の記号( ― )は、文字表記に変えさせていただきました。文字色付けは引用者〕。
『明鏡国語辞典』第二版(2011-2016)
しだい【次第】
一 〔名〕
①順序。
「式の次第」
②現在に至るまでの事情。いきさつ。なりゆき。
「事の次第を述べる」「事と次第によっては由々しき事態
となろう」
二 〔造〕
①《名詞に付いて》その人の意向や物事の事情にまかせる
意を表す。
「どうするかはあなた次第だ」「地獄の沙汰も金次第」
②《主として動詞の連用形に付いて》その動作などのなりゆ
きにまかせる意を表す。
「手当たり次第に物を投げつける」
③《動詞の連用形に付いて》その動作が終わるとすぐに、の
意を表す。
「満員になり次第締め切る」
実は、最近、NHKラジオで、“NASAが、火星でヘリコプター型ドローンの飛行実験を行う”というニュースを耳にしました。その中で、次のようなくだりがありました〔WEBで確認しました〕。
(ドローンが火星に)到着次第飛行実験が行われます。
このニュースは、下線の部分が変、と思われました。上掲辞典の赤字の項の下線部分に則るなら、動詞「到着する」(サ行変格活用)の連用形は「到着し」だから、「到着次第」は、「到着し次第」とならなければならないはずです。
ところが、よく見ると、上掲辞典赤字の項に続けて、以下のような解説が付いていました。
|語法|俗に、「到着し次第連絡する」を「到着次第連絡する」のように、直接動作性の名詞〔引用者注〕に続ける言い方もある。
〔引用者注〕
動作性の名詞とは、動作を表す名詞で、「する」を付ける
ことでサ行変格活用の動詞になる。=Wikipedia参照。
上掲|語法|を言い換えれば、「到着次第」という言い方は“俗な言い方”ということであり、そういう“俗な言い方”も存在する、と解説しているわけです。ということは、とりもなおさず、「到着」という動作性名詞の場合は「到着する」という動詞(サ行変格活用)に変化させ、その連用形「到着し」に「次第」を続けるのが、あくまで本来の言い方である、という立場を示していると思われます。
この辺のことを、『言葉の作法辞典』(2003)が以下のように説明しています。下線箇所で触れているように、発音上の要因もあるようです。
~しだい【~次第】
(略)サ変動詞「到着する」の連用形は「到着し」だから、本来は「到着し次第」が正しい。しかし、 「到着ししだい」と「し」が重なって発音しにくいこともあり、実際には「到着次第」といわれることも多い。
(略)動作性の名詞について「送金次第品物を送る」という言い方を認めている辞書もある。
上記引用の末尾に「「送金次第品物を送る」という言い方を認めている辞書もある」とありますが、確かに、『デジタル大辞泉』(1995、2016)では、「到着次第」という言い方は既定のものとして語義説明がなされ、用例も掲げられています。
動詞の連用形または動作性の名詞に付いて、その動作がすむと直ちにという意を表す。「満員になり次第締め切る」「本が到着次第送金する」
ところで、『広辞苑』第六版(2008、2011)、第七版(2018)では、
(動詞の連用形などに付いて)…するに従ってすぐの意。日葡辞書「デキシダイ」。「満員になり次第締め切る」
とあり、下線の「など」が意味ありげではありますが、“動作性の名詞に続ける言い方”については説明も用例もありません。
『新明解国語辞典』(2012)にも、“動作性の名詞に続ける言い方”についての説明や用例は、ありません。
〔以上の辞典は、すべてCASIOの電子辞書EX-wordに収録のものです。〕
さらに、手元にある『新編大言海』(冨山房)、『明解国語辞典』(三省堂)、『角川国語辞典』(角川書店)、『国語大辞典』(小学館)といった古い辞典類にも“動作性の名詞に続ける言い方”についての説明や用例は、ありません。
つまり、“動作性の名詞に続ける言い方”について、辞典に記述がなされるようになったのは最近のことのようですが、しかしそれは、まだすべての辞典においてではなさそうだということ、いま言えるのは、こんなところでしょうか。(;´д`)トホホ…
ついでながら、「~次第」は、英語では“as soon as”であるとのこと。アズ スーン アズ、~するや否や。…英語の授業を思い出します。遠い日のことですが。…