読書 スタイルズ荘の怪事件 アガサ・クリスティー著/矢沢聖子訳 詳細 | 怠け者のつぶやき

怠け者のつぶやき

今まで勉強してこなかった怠け者が
今更だけど本でも読もうか、ってことで色々と
本を読んだりニュースを気にしたりしてつぶやいてます。

○詳細

1.残された手がかりと疑問

①ストリキニーネをどうやって飲ませたのか

②エミリーとアルフレッドの口論

③ストリキニーネの購入先に来たアルフレッドと同時刻別の場所で見られていたアルフレッド。

④エミリーとメアリの会話で聞こえた「だって、あの件とは別だから・・」の内容

⑤エミリーの部屋の暖炉で燃えていた手紙

⑥ローレンスがエミリーの部屋で見た物

⑦鍵を差し込んだままの文書箱と鍵をこじ開けてまで盗んで行った手紙の内容。

⑧濃い緑色の布の切れ端

⑨そばの床に飛び散った蝋燭の蝋。

⑩薬剤師の名前の入っていない薬箱

⑪砂糖なしで飲んでいたコーヒー

⑫ジョンの筆跡で書かれた手紙

⑬音で気づいてエミリーの部屋に行ったメアリ。

⑭逮捕されたい様な発言をしていたアルフレッド

⑮ココアの鍋のそばにあった白い粉

 

2.真相

水曜日の朝に起きた事件は、実は月曜日にさかのぼらなければならない。この日、屋敷内の配線が切れており、エミリーは人を呼ぶ事ができない状態であった。そんな中午後6時頃に薬局に現れたアルフレッド・イングルソープは、同時刻に数マイルも離れた別の場所でミセス・レイクスと会っている事が目撃されており、誰かが変装した事が分かっている。特に薬局にいたアルバート・メースは、入って来て間もなく、髭にサングラスという出で立ちからも本当にアルフレッド本人であるかは気付きにくい状態であった。そしてアルフレッドのサインは、ジョン・カヴェンディッシュのものと非常に似ていたのである。同時にジョンに送ってきた手紙には「マーストンの木立」に来るように書いてあったが、これもジョンの筆跡とそっくりであった。これによりジョンが変装し、おかしな手紙が来たと自作自演をしていた様に仕向けた。

ストリキニーネは割れたコーヒーに入っていると思われたが、時間が経ち過ぎており、また食事等の効果が遅くなる症状も出ていなかったためにコーヒーでない事が予測された。ストリキニーネを過剰に取る方法はココアを飲む事であるが、ココアではストリキニーネ独特の苦みを隠せないためこの方法も無理である。

 そして、こじ開けられた文書箱には何があったのか。わざわざ犯人がそこまでリスクを犯さなければならなかった理由とは。様々な事を考えると、犯人はアルフレッド・イングルソープしかあり得ないのであった。ポワロはアルフレッドを憎い程嫌っていたエヴリン・ハワードが共犯であるという結論に至った。薬局にストリキニーネを買いに行った人物と、ジョンをマーストンの木立に呼んだ人物は、共にエヴリンである。筆跡をジョンに真似る事で、ジョンを犯人に仕立てる計画だった。アルフレッドの格好をして薬を買いに行き、同時刻にアルフレッドが別の場所で発見されれば、アルフレッドは無罪となる。さらに当時のイギリスでは、一度容疑者となった人間が釈放されると、同じ事件で2度は逮捕できない決まりがある事から、審問でわざと捕まるような発言をしていたのである。本来はこの日にエミリーは死んでいるはずだったが、計画がとん挫してしまった。彼女を殺害した方法は、彼女の飲んでいる強壮剤に入っているストリキニーネを、臭化カリウムを使用する事で沈殿させ、最後の一口を飲む時に過剰摂取になる様にするという方法であった。エミリーは忙しかったこともあり、薬をその日には飲まなかったのである。

 エミリー殺害の当日エミリーとアルフレッドが口論しているように思った相手は、実際はジョンで、不倫をしている事をメアリにばらすと言う内容であった。その後エミリーは夫の引き出しを開けてある手紙を見つける。アルフレッドが「最愛のエヴリン」と書いた2人の裏切りを証明するものだった。メアリと話をしている時の「あの件とは別」とは、ジョンの不倫ではなくアルフレッドが不倫しているという意味であった。この時の事はエミリーがショックな事があったとドーカスに嘆いている証言が取れている。メアリとエミリーが話している時に紙をもっていた事から、メアリはこれがジョンの不倫の証拠と思った。そしてココアが準備されたあと、メイドが離れた隙に睡眠薬を入れ明け方まで待った。同時にエミリーの部屋に入りシンシアの側のボルト錠を開け、同様の方法でシンシアにも睡眠薬を盛った。明け方になって、メアリはシンシアの部屋を通ったが、怪しまれないため農作業用の身支度をしていった。この袖の緑色の繊維が落ちてしまったのである。エミリーの部屋に入るとメアリは手紙を探した。するとエミリーが突然苦しみ出してコーヒーのカップを割ってしまったのだ。メアリも驚き、もっていた蝋燭を落としてしまった。睡眠薬とストリキニーネを同時に飲んだ事で、症状が遅れたのだが、メアリは自分のせいかもしれないと思いパニックになり、シンシアの飲んでいた砂糖なしのコーヒーカップを隠してしまった。メアリは音が聞こえたのでエミリーの部屋にやってきたと言っていたが、これが聞こえない事はヘイスティングズと実験をして確認している。エミリーの部屋の中からシンシアの部屋を通り、皆で一緒にエミリーの部屋に入った時、ローレンスが見た物は、エミリーの部屋からシンシアの部屋に続くボルト錠が外れていた事だった。これを見てローレンスは愛しのシンシアを守ろうと嘘をつき続け、エミリーの自殺説を言い続けた。

その後時を見て、変装に使用した髭やサングラスをジョンの冬物の下着の引き出しに隠しておいた。これでジョンを犯人にする事ができると考えたのである。

事件後、アルフレッドはエヴリンへの手紙を回収しようとしたものの、時間がなかった事から引き裂いてマントルピースの置物の中に入れるしかなかった。これが見つかった事により、アルフレッドの犯罪が証明された。

 

3.登場人物

①エルキュール・ポワロ

 ベルギー人の私立探偵。元警察官で、その頃に様々な難事件を解決しており有名である。背丈は5フィート4インチ(160cm)程度の小男で、頭の形は卵のようで、いつも小首をかしげている。口ひげは跳ね上がっており、身だしなみは驚くほど潔癖である。いつも相手に対してユーモアがあり、過剰なまでに礼儀を重んじる態度は、全てを見透かされている様な恐怖と何もばれていないと言う様な気持を混同させる。口癖となる「頭の中の灰色の細胞」はここでも健在である。

 

②ヘイスティングズ

 傷病兵として前線から本国に送還された元大尉。エルキュール・ポワロとは本作以前からも知人である。自分の事を理性的で利口だと思っておりそれなりにプライドが高いが、事件に関してはさっぱり分からない読者目線の人物でポワロの相棒役。本作では妙な勘違いをしてシンシアにプロポーズをしてしまうマヌケなミスも犯してしまう。

 

③エミリー・イングルソープ

 スタイルズ荘の主人。ジョン・カヴェンディッシュとローレンス・カヴェンディッシュは前夫の連れ子だったが、非常に可愛がっていた。名士だった前夫が亡くなり、遺産を全て継ぐことになった事になってスタイルズ荘の女主人となった。現在の夫、アルフレッドとは最近結婚をしたばかりだが、20歳以上も年の差の夫は金目的だと周囲に注意されていた事も全く聞かないほど入れ込んでいた。何事も自分で決めてしまう性格のせいで、エミリーを嫌っている人間も多い。一番の親友であるエヴリン・ハワードの事を信用していたが、アルフレッドと不倫をしている事を知ってしまい、遺書を書きなおそうとするが、間に合わず殺されてしまう。

 

④アルフレッド・イングルソープ

 エミリー・イングルソープの夫。長い髭にサングラスをかけており、エミリー一家の名士の雰囲気とは一線を画した悪党じみた風貌である。スタイルズ荘の面々からは敬遠されている。エヴリン・ハワードとは不倫関係にあり、エミリーを殺そうとした計画が失敗した事を手紙で知らせようとしてエミリーにばれてしまった。エミリーとの結婚はやはり金目的であった。

 

⑤ジョン・カヴェンディッシュ

 エミリーの義理の息子で、ヘイスティングズの友人。エミリーの事は血はつながっていなくても良くしてくれた事から好意を持っていたが、アルフレッドと付き合う様になってから関係がギクシャクしてしまっていた。明るい性格で、妻のエミリーは非常に美しいとヘイスティングズのお墨付き。借金があり、エミリーに金の無心をしようとしているがアルフレッドに遺産が移る事を心配していた。夫婦生活が上手くいかず、ミセス・レイクスと不倫をしてしまっていたが、妻が必死に自分に掛った嫌疑を晴らそうとしてくれた事をきっかけに関係が回復した。弟にローレンス・カヴェンディッシュがいる。

 

⑥メアリ・カヴェンディッシュ

 ジョン・カヴェンディッシュの妻で、不思議な雰囲気をもった美女である。いつも理知的で表情を変えない落ち着いた雰囲気をもっており、高貴な雰囲気も併せ持っている。何かとバウアスタイン博士と会っていて周囲からは怪しく思われていた。夫の不倫について知ってしまい、バウアスタイン博士に好意を持ってしまう。しかし夫に殺人犯の嫌疑がかかった事をきっかけに、夫への気持ちが再燃し、関係が回復する。

 

⑦ローレンス・カヴェンディッシュ

 エミリーの義理の息子で、ジョンの実弟。兄のジョンと違い、内向的な性格である。シンシア・マードックに惹かれている事から一緒にいる事が多いが、口下手で上手く伝えられないでいた。エミリーが死んだ瞬間も、隣のシンシアの部屋の鍵が開いているのを見た事から、シンシアの事を守ろうと医学の知識があるのにエミリーは自殺であるのではないかと主張し続けた。最後はシンシアと結ばれる事になる。

 

⑧エヴリン・ハワード

 エミリーの友人。誰にでもはっきりと物を言うところから皆の信頼は厚く、エミリーも一番の友人として慕っている。エミリーを騙して結婚に至ったアルフレッドに対しては憎しみにも似た感情を抱いているが、実は演技でアルフレッドとは不倫をしていた。エミリーが亡くなった後には、遺産をもらって2人で暮らす予定でいた。

 

⑨シンシア・マードック

 エミリーの旧友の娘で、スタイルズ荘に住んでいる。薬剤師をしており、今回の殺人のストリキニーネを持ち出せる立場にあった。快活な女性であるが、ローレンス・カヴェンディッシュとはあまり上手くいっていなかった。実はローレンスの事を慕っており、彼から冷たい態度を取られている事から落ち込んでいた事が判明、2人は結ばれる事となった。

 

⑩その他

ドーカス…メイド頭。ずっとスタイルズ荘で働いている。

マニング…庭師

ウィルキンズ…エミリーの主治医

バウアスタイン博士…独理学者

アルバート・メース…薬局の店員。2カ月ほど前に村に来たばかり。

ジェームズ・ジャップ…ポワロを知る警官。

サマーヘイ…ジャップと一緒に来た警官。

 

4.感想

 ポワロ第1段の小説も、驚きの連続であった。殺人が起きた時に全員が疑っていたアルフレッド・イングルソープが、まさか本当に犯人とは。自分はずっとジョン・カヴェンディッシュが犯人だと思っており、物語もそのように進んで行ったため、だらだらと犯人が出てきてしまったのでつまらないのかなと思ってしまった。つまらないのは自分の頭で、まんまと作者の手のひらで踊ってしまっていたのである。犯人と思っている人間が、鉄壁のアリバイを持ち出しながら、実はそれがトリックで真犯人と言う、裏の裏を書いた様な手法は非常に面白かった。相変わらず自分はアガサ・クリスティーの足元にも及ばない考えしかできていない。アガサ・クリスティーの小説は今読んでも十分面白いし、屋敷に名士にメイド等、現代日本ではなかなかない設定は逆に新鮮であり、一種の雰囲気を漂わせている。有名すぎて色々な本でオマージュ等もされていると言う事から、今後もアガサ・クリスティーの本を読みたい場合は現代小説を控えなければならないのだろうかと思ってしまうが、調べてみると長編小説だけで50篇を超えているとのこと。とりあえず他の作者も読んでみたいと思い、4作目のこの本を読み終わったところで小休止と行きたい。今まで読んだ中では、オリエント急行殺人事件が一番面白かったので、これは本気でポワロを読みたくなった人が読んでみる程度にとどめても良いかもしれない。