○特徴
1.背景
①ポール・クルーグマンは2008年のノーベル経済学賞を受賞している
②本著は2008年に起こったリーマンショックに対して、どうすれば良いかを述べる。
③発行したのが2012年と、オバマ大統領の2期目の選挙前の話である。
2.ポイント
①2008年のリーマンショックは1980年代レーガンの時代からの金融緩和によりレバレッジのリスクを軽く見てしまった結果起こった。
②現在行っている緊縮財政は、流動性の罠を生じさせる。景気を上昇させる為とは逆の行動である。
③必要な事はマネタリーベースを増やし、国債を増やしてでも財政出動を行い、インフレを進めることである。
④インフレが過剰に進み過ぎた場合は、マネタリーベースを調整し、金利を高くする事で調整もできる。
3..概要
リーマンショックは2008年にアメリカで始まり世界に波及した不況である。低所得者向けローンで借入をしやすくしたため住宅バブルが起き、金融業はリスクを回避するためにローンを証券化した(MBS)。この時最も問題だったのは、ローン債権では投機的格付けだったものが、証券化した時にAAAの超優良投資格付けに変わってしまった事である。焦げ付いた証券は信用不安を招き取り付け騒ぎを起こした。これによりリーマンブラザーズ証券が破綻してしまった。これにより証券への信用がなくなり、世界同時不況という事態が発生してしまった。
しかし原因について考察していくと、これは起こるべくして起こったとも言える。1930年代、世界恐慌の時代に学んだ事を忘れ、過剰に金融緩和をした事が原因だと考えられる。当時は注目されていなかったが、ハイマン・ミンスキーが懸念していたレバレッジを高める事によるリスクは、経済成長が進むにつれ軽視されていった。1980年代レーガンによって始まった金融緩和と自由競争の方針はその後も加速し、1998年にはロングタームキャピタルマネジメント(LTCM)破綻が起きた。この時は連邦準備制度理事会(FRB)が数千億ドルの資金援助を関連金融機関にする事によって、なんとか大不況を免れていたが、予兆もあった。
一方で金融緩和により経済が成長したと言う専門家もいる。しかしこれはアメリカ人の所得の上昇を見ると、金融緩和以前よりも低くなっている事が分かる。それでもなぜこのような意見が出るかというのは、国民の上位1%の所得が金融緩和が開始した頃から急激に伸びたからである。上位1%の所得は1980年以降概ね4倍、0.01%は6.6倍にもなっており、一部の人間にとっては金融緩和の効果は大きかったのも事実であった。
これに対して政府は5000億ドルの資金を投入しマネーサプライを増加したが、不況は収まらなかった。これに対して資金投入に効果がないと判断してしまったのが間違いだった。その後はインフレ懸念と、財政赤字を恐れた緊縮論者(オーステリアン)から緊縮財政に舵を切ってしまった。
これを解決するにはどうしたらよいか。それは過去の歴史が教えてくれる。特にメイナード・ケインズの理論を思い出してみると良い。まずは政府が資金の投入を行う。5000億ドルを投入して失敗してしまっているが、アメリカの1年間のGDPは約15兆ドルからするとこれでは量が少なすぎたのだ。そして第2にインフレを目指すことである。政府が財政出動する時に国債の発行が増えても、インフレが進むと名目の国債は減らなくても、貨幣の価値が低くなる分国債は目減りする。財政支出をし過ぎるとハイパーインフレになるおそれがあると言うが、国債がGDP比で高い日本やイギリスでもハイパーインフレは起きていない。インフレが行き過ぎる場合は、マネタリーベースの調整をするか金利を上げる事で抑えることも可能である。
4.良い点
①アメリカの経済を視点とした話を読む事ができた。
5.悪い点
①特になし
○評価
1.目的
ノーベル賞受賞者の本を読んでみたいと思った事。
2.評価(各5段階、30点満点)
項目 | 説明 | 点数 |
目的との合致度 | 目的と合致しているほど高い | 5 |
わかりやすさ | わかりやすいほど高い | 4 |
内容の質 | 質が高いほど高い | 4 |
内容の量 | 量が多いほど高い | 3 |
読み応え | 読み応えがあるほど高い | 4 |
専門性 | 専門性が高いほど高い | 2 |
合計 |
| 22 |
評価 |
| B |
※評価はS、A、B、C、Dの5段階。B以上は読む価値あり。
読み物としての面白さがある。時々入る冗談の意味は良く分からない。
3.学んだ事
①ケインズ派の理論