OCCULTIC;NINEから5年、ROBOTICS;NPTES DaSHから3年と、久しぶりの科学アドベンチャーシリーズの新作が発売された。
発表から7年と長い期間の開発を経てようやく世に出た本作であるが、個人的には面白い部分もありつつ不満もあったというような諸手を挙げて称賛するような作品ではなかったので、良かった点と不満点を本編を振り返りながらつらつらと書き連ねていこうと思う。
ちなみに私はカオヘ、カオチャ、シュタゲプレイ済み、オカンとロボノはアニメだけ、DaSHと共に積んでるロボノはアノコが面白くやる気が出たので、これから進めていきたいと思います。
ネタバレを多分に含むので、クリアした方々に読んでもらいたい。
以下感想。
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舞台は2037年、2036年問題で世界中の防衛システムが誤作動し、『サッドモーニング』と言われる大災害が起きた1年後の中野から物語は始まる。
バイクの後ろに女の子を乗せながら疾走するアバンタイトル。颯爽と目の前の困難を乗り越えていく主人公のポロンは実は2周目の世界でしたという展開はとてもいい掴みだった。”セーブ&ロード”という世界をリセットする力を手に入れたポロンは、それらを駆使し問題を解決していく様はまさにシュタゲのような雰囲気で入りやすい。
シュタゲでは世界線という概念があったが、アノコでは世界層という概念が追加されてる。これは本作に出てくる世界そのものをシュミレーションできるQCDCが実現する世界を下とみなすことで、自分たちの世界もシュミレーションで実現された世界ではないか?というテーマを扱うために出てきた概念。つまり自分たちと同じような世界が上下に積み重なっている(観測出来ないので、自分たちが今どこの世界層にいるかなどがわからないため、正確には上下ではなく下にしか広がってない可能性もあるが)状態であると解釈している。
世界そのものをシュミレート出来るといえば「とある魔術の禁書目録」の”樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)”やアニメ映画の「HELLO WORLD」(この作品の未来から来た主人公も2037年から来訪しており奇妙な一致だ)の舞台で使われていたり、「PSYCHO-PASS」や「東京24区」のような犯罪を予測するシステムなんかも同じようなものだろう。さらに言えば、グレッグ・イーガンの「順列都市」は人格をコピーしデータにすることで肉体の枷から解き放たれた人間が描かれていたり、宇宙すら完全にシュミレーション出来るコンピューターからifの世界を創造したり、岡嶋二人の「クラインの壺」は現実と完全に一致してるVR空間にダイブでき、現実との差異とはなにかを描いており、前者は1994年、後者は1989年に刊行されていて、アノコのテーマに似たような作品は古くから命題になっていたのだろう。テーマとしては使い古されているが、これをメタフィクションの要因として使うのはとてもおもしろいと思った。使い古されているということは、こういった世界観が普遍にあるということだし、”セーブ&ロード”というそのまますぎるネーミングもこういったゲームをプレイしてる人たちにとっては馴染み深く、それをトリガーにするのは直接的でわかりやすかった。これらの作品が好きな私としては面白いテーマだったし、私の一番好きな作品あたりから続くブームにうまく乗っていて、古くからあるテーマをブラッシュアップして現代風に仕立てたような印象だった。
総監督の志倉千代丸氏のインタビューにもあるように、普遍に使われているテーマと直接的なネーミングが軸になっているのはわかりやすさをきっちり体現されているように感じたし、マンガトリガーもノベルゲーでは表現できない疾走感や、実験の解説(特に量子ゆらぎのシーン)が視覚的に理解しやすかったり。
あとは愛咲モモとアマデウスと比較される部分。ある一定まで同じ記憶を持っていてもある時点で分岐した場合、別の個体と認識するのは、比屋定さんが岡部にアマデウスと紅莉栖を同一視するなと口酸っぱく言ってたのを好意的に鋭く指摘してるようで、シリーズやってる身としてはとても面白く感じた。さらに記憶の保持そのものが個人を規定する要因として扱ってるのも、これまでの科学アドベンチャーシリーズ含め一貫しているのもよい。トゥルーエンドのモモの様子から、アマデウスに記憶をコピーした際、ループした世界の記憶も引き継いでるようなのは、これからのシリーズにおける重要なファクターになりそう。これまでの因果の分データ容量が増えてるの、思いっきりまどマギでしたね。
愛咲モモ、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ https://t.co/Vf8xWz4T1Q
— ココトラさん🎹 (@_trrrrrrrrr412) August 5, 2022
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これまで良かった点を挙げてきましたが、不満点も多くありました。
それにこれまで挙げてきた作品はテーマをしっかり描ききったり深掘りした印象でしたが、アノコの地球シュミレーションがある世界や、ループものに対するテーマの掘り下げもいまいち足りないように感じた。正直トゥルーエンド時点でノーマルエンドかな?くらいのボリュームに感じた。世界まるごとシュミレートできる世界観で、それに翻弄される人々があまり描かれなくて、それが明るみになった時にはアスマが暴れまわっててそれどころじゃない空気だったし、ハッキングトリガーを使った代償のフラッシュバックやそれを取り上げられた時の絶望は、過ぎた力を持ったゆえの罰でしかなくて、オカリンが何度も繰り返した辛さや過去を改変する罪の部分が薄味だった。最初の世界のモモを救いたかったって願いと、オカリンと紅莉栖の立場を逆にしたようなラストはとても好みだったので、それを意識してあえて書かなかったという気もしましたが。2周目でポロンが、あの時のモモを救いたいという気持ちを漏らしてたし、それは永遠に失われたって絶望をもうちょっと深く描いてくれたらメッセージとして強かったなと思ったりしましたね。
ダルやフラウなどの過去作要素出てきてシリーズの一部に組み込まれているのに、メタフィクションを取り入れたのも賛否分かれそうだなと。さらに言えば、同じようなシリーズもので後継作(新作が出る気配がないので完結作になりそうだが)にメタフィクションを取り入れた作品があったが、あれは過去作ひっくるめて”偽物だって本物になりうる”というのを力強く主張していたにも関わらず賛否が分かれていたので、メタフィクションとしての面白さを描いたものの、シリーズものとしてこれまでの作品やらのフォローがあまり見受けられなかったので、そこの甘さも気になりましたね。300人委員会のようなこれまでのシリーズで出てきたワードの掘り下げもなかったので、次で何かしらを期待したいですが……。世界観を同じにして続編出すのなら、どういった描き方をするのかは気になるところではある。
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総評としては、面白くは合ったが物足りなさが勝ったって感じでしょうか。正直個人的にめちゃくちゃ好きだったカオチャやシュタゲに匹敵するくらいの世界観や設定でありましたが、あと1歩2歩シナリオの捻りや深掘りがあれば……といったところ。正直この作品単体だけで見ると人に勧めれるほどじゃないですね。科学アドベンチャーシリーズ好きでアノコに興味あるならやってもいいんじゃない?くらい。
マンガトリガーに志倉氏は可能性感じてたように、私もそっちに振り切ったノベルゲーは興味あります。キャラクターがぬるぬる動くのはぶっちゃけアニメーションを低予算で表現してるようなものだし、今ではLive2Dでリアルタイムに横向けたり顔以外の動きとかできちゃうので、新鮮さを与えるとしたらいい方向だと思ってます。アニメ表現主体なのはシュタゲエリートとかありますし。
いついかなる時もどんな絶望が立ち塞がろうともがき続けてたモモを救いたいと願ったポロン、その純粋な2つの願いで変わった未来はとても好きだったので、この先も真っ直ぐで強かな世界が描かれることを願って。