経済政策の3つの軸 | scientiespotenti

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一般的に、経済政策には3つの目標があると言われています。それが何かというと

①経済成長:国民経済の余力を上げる。

②景気安定化:国民経済の余力を残さない。

③所得再分配:国民の最低限の所得の保障、格差の是正。

となります。


まず、経済成長は必要なものだということに異論はないと思います。あえて、1つ強力な根拠を示すとすればアーサー・オークンのオークン法則というものがあります。この法則は実質経済成長率と失業率の負の相関関係のことで、例えば実質経済成長率が下がると失業率が上がるという経験測です。1997年から2012年までの日本は実質経済成長率はプラスだったのだから問題はないと思うかもしれませんが名目経済成長率は横ばいでありデフレーションが生じていました。デフレーションが生じている場合フィッリプスカーブにより失業率が上昇します。フィッリプスカーブはインフレ率と失業率の負の相関関係を示す経験測であり1980年以降相関係数が低下し始めていますが日本においては依然として有効性を担保しており完全雇用が成立するまでは、つまり短期においてはこの関係は成り立ちます。オークン法則を前提とするならば、経済成長は失業率を経由して、幸福度に影響を及ぼすことになります。

次に、景気安定化がなぜ必要なのか見ていきましょう。景気循環するのは市場の常です。アダム・スミスに言わせれば、そういうものは市場経済の常なので自然に放っておけばよいということになると思います。しかし、マクロ経済学の誕生に当たっては、1930年代の大恐慌の経験が大きく影を落としています。失業率が高くなることは国民にさまざまなコストを強います。現代にいたるまでマクロ経済学は、不況になったときにただ事態を静観するのではなく、政府や中央銀行が介入して不況からできるだけ速やかに脱出すること、逆に行き過ぎた好況は是正した方が良いということを合意事項として来ました。

最後に、所得再分配はなぜ必要なのでしょうか。ここで、所得再分配というときには、貧困と格差の2つの問題を切り分けて考えたほうが分かりやすいと思います。貧困というのは最低限の所得水準、格差というのは所得のばらつき具合を問題にしています。もともと人々が所得や資産形成するのは、努力だけでなく、才能や運といった偶然の要素があります。不況の時に就職した人と好況の時に就職した人には明らかに差が出てきます。あらゆる偶然の要素を補正することはできないとはいえ、結果だけをもって完全に貧困と格差を正当化することも難しいというべきでしょう。貧困が問題であることはすぐにわかると思います。1つの理由は、経済学者が好む狭義の基準である効率性からです。人々が食べるものも食べないでいる状態では、働きようがありません。また、そういう状態では教育にも時間も金もかけられないでしょうから、労働の質も劣るでしょう。さらに、人間は、なんらかの事情で、いつなんどき難病にかかるかも、障害を負うかもわかりません。先天的に障害を負う場合も、後天的に障害を負う場合もあります。そう考えると、一種の保険として、最低限の生活保障を行うことは正当化できます。公平性観点から問題があります。冒頭でみたように、ことに日本では10未満の子供たちの貧困が増えています。かりに成人に関しては貧困状態に陥ることの本人の責任を問うことができるとしても子供に貧困の責任を問うことはできないというべきでしょう。

重要なのは、この3つの政策をバランスよく達成することです。しかも、これらの3つの間には、お互いに良い影響をもたらしあう正の関係と同時にトレード・オフがありえるからです。例えば、経済成長と所得再分配については、次のような関係が考えられます。

経済成長は貧困の縮小につながるか

経済成長は貧困の拡大につながるか

一定の生活保障は成長を促進するか

行き過ぎた再分配は成長を阻害するか


日本においてここ20年程の日本は、景気安定化を軽視してきたきらいがあります。

実際のGDPの伸び率を引き上げるには上述の通り、2通りのやり方があります。

1つの考え方は、景気安定化によって好不況の波をならすことは経済成長にとって望ましくない、というものです。この考え方はヨーゼフ・シュンペーターに依拠するものです。シュンペーターは企業家による新結合(各種の経営・技術・組織革新)の遂行が資本主義発展の原動力と考え、景気循環はそうした新結合によって説明できるとしました。また、そうした景気循環の波の中で不良な事業や企業や産業は自然に淘汰されていくものであり、逆に景気を安定化させようとすることは資本主義の心臓の鼓動を弱めるようなものと評しました。

もう一方のジョン・メイナード・ケインズは、マクロ経済の安定化を提唱しました。その理由は、彼なりに企業家活動を重視する立場からのものです。ケインズは、企業家と労働者を合わせて活動階級、いわゆる資本家や金利生活者を不活動階級と呼び、活動階級こそが資本主義の原動力と考えました。例えば、デフレーションになってしまうと、金利生活者は金をただもっている、あるいは貸すことが有利になりますが、企業家が金を借りることは不利になります。また、デフレーションになると、名目賃金がデフレーションほど下がらないと、実質賃金は高止まりしてしまいますから、企業家は労働者を雇いたがりません。そうなると資本主義の原動力であるはずの企業家、労働者は不利な立場に立たされています。ケインズ自身は、デフレーションもインフレーションも害悪であるが、多少のインフレの方が望ましいと考えていました。