28日15時の出発に合わせて、昼にマドリッド空港に移動した。出国手続きはスムーズに終わり、ほぼ満員のカタール航空の飛行機はドーハに向けて飛び立った。
しばらくは眼下にスペインの田舎の山や畑が見えていたが、地中海に出ると、あとはほとんど海上を飛んでいく。走った場所が見えるルートだとよかったのに。

夜中のドーハ空港で関西空港行きに乗り継ぐ。空港内にイスラム教徒しか入れない礼拝所があるのがムスリムの国らしいが、ガラス越しに見ると男たちのくつろぎスペースになっていた。
関西空港行きもほぼ満席で、機内にはヨーロッパ帰りの日本人ツアー客が多かった。風邪をおみやげにもらった人が多く、隣の席の人がひどい咳をし通しなので参った。しっかり風邪をうつされて、帰国後一週間寝込む羽目になった。

機内では食事のたびにワイン飲んで、あとはほとんど寝ていた。マドリッドから17時間半。行きの5カ月に比べるとあまりにあっけなく飛行機は日本に到着した。夕暮れの瀬戸内海に沿って続く町の明かりは、この旅で訪れたどの町よりもきらびやかにどこまでも続いていた。そして、何より印象的だったのは山の緑色の深さ。山頂まで濃い緑に覆われた山の風景は、ロシアにもヨーロッパにもない。日本はそれだけの緑を育む雨に恵まれた国なのだ。
見慣れた入国審査、ターンテーブル、税関申告。空港バスからの風景も、何も変わっていない。違和感もなくすんなりと町の灯のひとつになる自分に、5カ月の旅の末残ったものは何なのか。今はまだ分からないが、明日からの日常の中で、それが見えてくるのかもしれない。

おまけ。
マドリッドの百貨店エル・コルテ・イングレスの広告に、プラド美術館収蔵の「ラス・メニーナス」をもじって実写で再現したものがある。

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絵ではベラスケス本人がパレットを持って立っている場所に、カメラマンが立っているのが秀逸だと思う。