夜通し強風が吹き荒れ、大粒の雨が降ったりやんだりしていた。
朝になると、雨の気配は一旦遠ざかった。海の上にはどす黒い雲が垂れこめ、手前を低い灰色の雲が強風で走るように流れていくが、そのすき間から一瞬青空が見えたりする。行くなら今のうちだ。
宿の軒下に停めたバイクのエンジンをかけ、ロカ岬への道を走り出す。台地の端をアップダウンし、たったひとつの小さな村を越え、岬へは15分もかからなかった。

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「ここに地終わり海始まる」
ポルトガルの詩人カモンイスのあまりにも有名な一節が、確かに刻まれていた。
朝なので、岬にはまだ誰もいなかった。

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強風であおられた波が岬の断崖に打ち寄せては砕けていた。断崖の上には赤い灯台が立っていた。
着いちゃったなあ、とちょっとため息が出るような気持ちだったが、たどり着いた達成感よりも、ここまでの一日一日、一瞬一瞬の積み重ねのほうが強く思い出された。

1時間ほど岬にいると、観光客もちらほら来はじめ(日本人だった!)雲ゆきも怪しくなってきたので、宿に戻った。
宿に帰って10分とたたないうちに、土砂降りの雨が降りはじめた。危ないところだった。
そのあとも一日降ったりやんだりの天気だったので、どこにも出て行くことができず、宿で過ごした。

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ポルトガルといえばエッグタルト。カスタードクリームやプリンのたぐいは、ダマができたら日本では家庭料理のレベルでも失敗になると思うが、これまでの国ではそんなのが平気で売り物になっている。だが、ポルトガルのエッグタルトはなめらかでうまかった。

夜になり、明日のバイクの航送に備えて荷物の整理をしていたとき、急に「旅が終わった」という思いが胸に迫ってきた。そして、今軒下で静かに航送を待っているバイクが妙に愛おしく思えてきた。エンジンがオイル漏れで真っ黒になり、異音を立てながらも、不平も文句も言わず最後までタフに走り続けてくれたからこそ、ここまでたどり着くことができたのだ。
そんな思いで、バイクのところに酒を持っていって、両の車輪にかけて、乾杯した。

本日の走行距離 20キロ(地図より推定)