監督:クリストファー・ノーラン

キャスト

 ジェレミー・セオボルド(ビル)

 アレックス・ハウ(コッブ)

 ルーシー・ラッセル(金髪の女性)

 ジョン・ノーラン(警官)

 

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クリストファー・ノーラン監督が1998年に発表した長編デビュー作。他人の尾行を繰り返す男が思わぬ事件に巻き込まれていく姿を,時間軸を交錯させた複雑な構成で描き出す。

 

作家志望のビルは創作のヒントを得るため,街で目に止まった人々を尾行する日々を送っていた。そんなある日,ビルは尾行していることをターゲットの男に気づかれてしまう。その男コッブもまた,他人のアパートに不法侵入して私生活を覗き見る行為を繰り返しており,ビルはそんなコッブに次第に感化されていく。数日後,コッブとともにアパートに侵入したビルは,そこで見た写真の女性に興味を抱き,その女性の尾行を始めるが…。

 

1999年・第28回ロッテルダム映画祭で最高賞にあたるタイガーアワードを受賞するなど高く評価され,鬼才ノーランの名を一躍世界に知らしめた。2024年4月,デジタルリマスター版にてリバイバル公開。(「映画.com」より)

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 「映画.com」の紹介にあるようにクリストファー・ノーラン監督の長編デビュー作であるが,ある意味衝撃的な作品だ。クリストファー・ノーランは『ダンケルク』のようなフツーの映画も撮っているが,本作のような作品においてこそ才能の高さがうかがわれるように思われる。

 サスペンス映画なので詳しい内容に触れるわけにはいかないが,上の「映画.com」のストーリー紹介にもう少しつけ加えると,ビルはコッブが仕掛けたワナにドンドンはまっていき,写真の女性も絡んでとんでもない事件に巻き込まれるのである。

 映画は小箱からいろいろと雑多な物を取り出し,またその中のいくつかを元に戻しフタをするという示唆的なシーンから始まる。このシーンは後で意味を持ってくるのであるが,これに続いて時系列をバラバラにしながら物語が展開されていく。これは後の「メメント」や「テネット」で本格的に用いられる手法であるが,本作の場合はビルの服装の違いや顔に暴力を受けた痕があるシーンとそれがないシーンで時系列の前後がほぼ分かるようになっており,それを考えながら観ているとなぜかワクワクしてしまうのである。

 ストーリーはバラバラに描かれていたシーンが終盤において見事につながるのだが,実はビルが巻き込まれた事件の最終目的が観客の想像を裏切るような展開になっており,「エッ,目的はそこだったの?」という驚きでもって終わるのである。

 モノクロームの作品はどこか重厚な雰囲気があり,本作も何か哲学的なメッセージがあるかのように思わせながら,まったくのサスペンスに徹しているところなど,一筋縄ではいかない映像作家である。