5月3日の朝日新聞朝刊の「クロスレビュー」というコーナーに「『変な家』大ヒット」と題して,朝宮運河さん(怪奇幻想ライター),柳下毅一郎さん(映画評論家),森岡友樹さん(マドリスト)の批評が掲載されていた。マドリストって?と思ったのだが,mixiで「間取り図大好き!」というコミュニティーを立ち上げた人とのことだそうである。

 ところで,私はこの記事を読むまで『変な家』という小説の存在を知らなかったのであるが,記事によると,この小説は2021年に単行本が刊行されて以来,文庫本と合わせて170万部を突破しているそうで,映画化もされて興行収入40億円を超えたそうである。内容は「中古住宅の奇妙な間取り図に端を発し,やがて恐るべき真実が明らかになる異色の不動産ミステリー」とのことである。

 間取り図ね~。「そう言えば,自分が住むことになる家の間取り図以外はじっくり見たことなどなかったな~」などと思いながら,三人の批評を読んでみた。「日常の『未知』 心理突く直球」と題された朝宮さんの批評は概ね高評価,「動画と親和性 若い人が受容」というタイトルの柳下さんの批評は映画に即したものだが,かなり辛口,最後に,「間取り図で妄想 怖さに拍車」と題された森岡さんの批評は間取り図を読むことの楽しさという点を中心に高く評価している。

 というわけで(何が「というわけで」か分からないが),とりあえず読んでみることにした。最初に以下のようなある家の間取り図が掲載されていて,「あなたは,この家の異常さが分かるだろうか」と述べられている。5~6分ジーと見たがさっぱり分からないので,本文を読み始めた。

 

 

 物語は筆者の知人の柳岡さんが今度買う予定の中古住宅の間取り図を送ってきたところから始まる。柳岡さんはその家を気に入っているのだが,一箇所不可解なところがあるというのだ。それは1Fの台所とリビングの間にある謎の空間である。しかし,筆者は建築について全くの素人なので,知人で設計士の栗原さんに相談をする。そこから筆者と栗原さんの会話が長々と続き,栗原さんがその間取り図の謎についていろいろな解説をする。栗原さんによれば,不可解なのはその謎の空間だけではなく2Fの間取り図にも不可解な箇所があるとのことなのだ。そこで,栗原さんはその不可解な点を総合するとある一つのストーリーが考えられると言って,その話をするのだが,これ以上はネタバレになるので内容紹介はここでやめておく。

 さて,読んでみた感想だが,20~30ページほど読んで感じたのはプロの作家としての文章技法が全くと言ってよいほど用いられておらず,じつに味気ない文章だということだ。しかし,その点は眼を瞑って物語の展開だけに集中すればよいということで読み進める。たしかに,間取り図についての推理はなかなか面白いし,話の展開につれて起こる事件がその間取りとどのように絡み,最後はどのようなところに話を落とし込むのだろうかという興味もかき立てられる。しかし,それも話の中間ぐらいまでだ。ひと言で言うと,「エ~,そこに落とし込みますか!!」ということなのだ。まあ,このあたりは趣味の問題なので,私には合わなかったというだけのことなのだが,このような○○○○○○しい話はどうもね~。

 朝宮さんによると,これはもともとウエッブ記事とネット動画でバズった話を小説の形に落とし込んだものだそうだが,時代はやはりSNSといったところか。AIがこの類いの小説を濫造する日が来るのも近いだろうということを感じさせる小説だった。