監督:深作欣二

キャスト

 菅原文太(広能昌三)

 北大路欣也(山中正治)

 千葉真一(大友勝利)

 梶芽衣子(上原靖子)

 

 またこの映画を観てしまった。(笑) 何度観ても面白い。というわけで,以前Yahoo!ブログに掲載した記事を一部編集してアップすることにした。

 

 暴力団同士の抗争を描いた映画「仁義なき戦い」のシリーズは1973年~1974年にかけて公開された実録路線のヤクザ映画である。このシリーズは全部で5部からなるが,「広島死闘篇」はその第2部にあたる。

 

 『仁義なき戦い』のシリーズは劇場公開時に観てから何度観ただろうか。それほど好きな映画だ。この映画は『ゴッドファーザー』と比較されることもあるようだが,同じように暴力組織を描いていながら決定的に違うのは,『ゴッドファーザー』は家族の物語であるのに対し,『仁義なき戦い』はアウトローの世界に生きる男たちの群像劇であるという点だ。『仁義なき戦い』の中で家族が描かれることはほとんどない。

 さて,この「広島死闘篇」だが,物語は広島での抗争に絡む二人の若者,山中正治と大友勝利を中心に展開される。菅原文太演じる広能昌三は呉で小さな一家を構えており,脇から物語に絡むことになる。村岡組に所属する山中と大友組を結成した勝利は互いに敵対し合う関係にあるのだが,対照的と言ってもよい存在として描かれる。どちらも武闘派である点は共通しているのだが,山中は自分を拾ってくれた村岡組長には絶対的に服従し,村岡の命令を忠実に実行するのに対し,テキ屋の大友連合会の大友長次の実子である勝利はいずれは自分が広島を仕切るという野望を持っており,テキ屋に甘んじているオヤジの言うことなどクソ食らえなのである。アウトローの中のアウトローといった感じで,怖い物なし。狂ったように凶暴な男なのだ。勝利を演じる千葉真一のハジけっぷりを観るだけでもこの映画を観る価値があると言ってもよいだろう。「俺たち,うまいもん食って,まぶいスケ抱くために生まれてきたんじゃないの,おう?」

 上でも述べたように,『仁義なき戦い』シリーズにおいては家族が描かれることはほとんどなく,女性は男たちの添え物として描かれているに過ぎない。ただ,「広島死闘篇」だけは別だ。上原靖子は村岡組長の姪にあたり,村岡も彼女を可愛がっているのだが,靖子は山中と恋仲になるのである。物語は暴力団同士の抗争を横軸に,靖子と山中の恋を縦軸にして進んでいくのだが,この恋は山中の死という悲しい結末を迎える。それは村岡が自分の利益と組織の勢力拡大のために山中を徹底的に利用したからである。組織の幹部とその延命のために捨て駒として利用される若者。この理不尽。これこそがこのシリーズを通じて脚本家の笠原和夫が一貫して描いていることなのだ。怒りを込めて…。

 ラスト。山中の死を悼んで「山中正治追悼花会」が開かれている。広能も参席している。第1部で広能をさんざん利用した山守親分が言う。「山中いうもんはしゃんとしとったの。親にも一家にも迷惑かけずに死んでいった。村岡さんもええ若い衆持ってたのう。」苦々しい表情で聞いている広能。

 『仁義なき戦い』のシリーズは極上のエンタメ映画として多くの人たちに支持された。それは言うまでもなく,アクション映画の持つワクワク感,登場人物たちの個性の面白さ,役者の熱演に支えられているものだろう。しかし,それだけではなく,この理不尽な組織を通じて描かれている,上に立つ者の卑怯で汚ない保身とそれによって犠牲になる若者へのある種の共感が私たちの中に呼び起こされるからとも言えるのではないだろうか。