2024年の「新書大賞」が発表された。

 主催者の発表によると,「2022年12月~2023年11月に刊行された1200点以上の新書を対象に,有識者,書店員,各社新書編集部,新聞記者など新書に造詣の深い方々107人が投票した結果」であり,第1位に輝いたのは今井むつみ / 秋田喜美『言語の本質』(中公新書)である。

 この本は2023年5月25日に初版が発行されたのであるが,私がこの本の存在を知ったのは今年になってからで,10日ほど前に紀伊國屋書店梅田本店で購入したばかりである。未読なのだが,近日中に読んでみたい。

 

 ところで,合わせて発表される2位~20位は以下のようである。

2位 東浩紀『訂正する力』(朝日新書)

3位 村上靖彦『客観性の落とし穴』(ちくまプリマー新書)

4位 三牧聖子『Z世代のアメリカ』(NHK出版新書)

5位 鈴木大介『ネット右翼になった父』(講談社現代新書)

5位 周司あきら / 高井ゆと里『トランスジェンダー入門』(集英社新書)

7位 辻田真佐憲『「戦前」の正体』(講談社現代新書)

8位 小泉 悠『ウクライナ戦争』(ちくま新書)

9位 三浦まり『さらば,男性政治』(岩波新書)

10位 千葉 聡『ダーウィンの呪い』(講談社現代新書)

11位 佐藤俊樹『社会学の新地平』(岩波新書)

12位 國分功一郎『目的への抵抗』(新潮新書)

13位 間 永次郎『ガンディーの真実』(ちくま新書)

13位 牧野百恵『ジェンダー格差』(中公新書)

13位 森部 豊『唐―東ユーラシアの大帝国』(中公新書)

16位 宇野重規『実験の民主主義』(中公新書)

17位 斎藤幸平『ゼロからの「資本論」』(NHK出版新書)

18位 友田健太郎『自称詞〈僕〉の歴史』(河出新書)

19位 湯澤規子『「おふくろの味」幻想』(光文社新書)

19位 井奥陽子『近代美学入門』(ちくま新書)

 

 投票者数が107人と少ないため5位,13位,19位が同点だったようだが,なんと,読んだことのある本が一冊もない!タイトルや短文での本の紹介を読んで興味を持てそうな書物としては,3位 村上靖彦『客観性の落とし穴』,5位 鈴木大介『ネット右翼になった父』,8位 小泉 悠『ウクライナ戦争』,10位 千葉 聡『ダーウィンの呪い』,11位 佐藤俊樹『社会学の新地平』,19位 湯澤規子『「おふくろの味」幻想』といったところか。

 

 ここに挙げられている20人のなかで,その人が書いた他の著作を読んだことのある著者は鈴木大介,國分功一郎,宇野重規,斎藤幸平の4人である。

 鈴木大介の著作は以前『最貧困女子』(幻冬舎新書)を読んだことがある。この本は,家族・地域・制度(社会保障制度)という3つの縁をなくし,セックスワークの中でも最下層に埋没して日銭を稼ぐしかない「最貧困女子」の苦しみや痛みを可視化することで一定の解決の方向を提示している渾身のルポである。

 國分功一郎の著作では『暇と退屈の倫理学』(太田出版)について当ブログで書評を書いたことがある。

 宇野重規の著作は『民主主義とは何か』(講談社現代新書)を読んだことがある。古代ギリシアから始まって民主主義についてのいろいろな考え方を論じた書物であり,「理念としての民主主義」を学ぶには恰好の書物である。ただ,現実政治のなかで民主主義をどのように実現できるかということについてはあまり論及がなく,その点では物足りなさが残った。『実験の民主主義』ではその辺りが取り扱われているのだろうか。

 斎藤幸平の著作はベストセラーになった『人新世の「資本論」』(集英社新書)を読んだことがある。著者の地球環境問題の取り上げ方については理解はできるが,『資本論』の解釈はかなり牽強付会で『資本論』を読んだことのない読者をミスリードしかねないのではないかと思われる。