監督:マーティン・リット 

キャスト

リチャード・バートン(アレック・リーマス)

クレア・ブルーム(ナン・ペリー)

オスカー・ウェルナー(フィードラー)

ペーター・バン・アイク(ムント)

 

ジョン・ル・カレ原作の『寒い国から帰ってきたスパイ』の映画化作品。ジョン・ル・カレのスパイ小説は読んだことがないが,映画化された作品では,『裏切りのサーカス』,『誰よりも狙われた男』を観たことがある。いずれも派手なアクション映画ではないが,リアリズムに貫かれたスリリングな展開に引き込まれる作品であった。

 

1960年代,東西冷戦時代のベルリン。冒頭,静かな音楽が流れるなか,クレジットとともに東西ベルリンを隔てている有刺鉄線と検問所が映し出される。そして,西側への亡命を企てたイギリス諜報部の連絡員リーメックがイギリスの検問所のすぐ近くで射殺される。ただちにイギリス諜報部のベルリン主任アレック・リーマスはロンドンに呼びもどされる。帰国したリーマスは,サーカスの秘密情報部長官(通称管理官)から,西側の諜報員が次々に殺害されるのは元ナチ党員で現在東ドイツ諜報機関の副長官ムントによるものだと知らされる。そして,東ドイツに潜入し,ムントの部下で,ムントに疑惑を抱いているユダヤ人のフィードラーの尋問を受け,ムントが二重スパイだと告発するよう仕向けるようにという密命を受ける。リーマスは,表向きはイギリス諜報部をクビになり,酒浸りになったように装っていると,東ドイツの諜報員が接近してくる。一方で,彼は職安で紹介された図書館の仕事をして日々を過ごしているが,同じ図書館で働くナン・ペリーと恋に落ちるのである。このあと,物語は東ドイツに潜入したリーマスを中心に,彼の任務遂行のプロセスを描いていく。

 

 原作をかなりカットしているだろうと思われる部分もあって,展開の速い作品であるが,とても分かり易く,ダレてしまうところが全くなかった。特に,終盤の最高評議会による査問のシーンから一気にたたみ掛けてくるどんでん返しに次ぐどんでん返しは実にスリリングで,スパイ映画の真骨頂とでも言うべき展開には思わず唸ってしまった。派手なアクションシーンはまったくないが,The Endまで観る側の緊張感を持続させるのは,脚本段階での構成の手堅さによるものであろう。たとえば,リーマスとナンの恋愛にしても,サスペンスの中に無理なく位置づけられており,映画の終盤でキッチリと回収されているところは見事のひと言である。

 このように,この作品はスパイもののエンタメ映画としてはとてもレベルの高い作品であるが,それだけではなく,スパイの目を通しての国際政治の非情さをもキッチリと描いているのである。例えば,終盤,リーマスとナンは次のような会話を交わす。

ナン「あなたはどっちの味方? 考えはないの?」

リーマス「ご都合主義。それだけだ。…スパイを何だと?…スパイは修道僧なんかじゃないんだ。」

 こんな物言いをするリーマスがエンディングでとった行動…。深い愛情を感じさせるが,なんとも切ないよね~。国家の大義と個人の幸福ということについても考えさせられる映画であった。