監督:ジュゼッペ・トルナトーレ

キャスト

 サルヴァトーレ・カシオ(少年期のサルヴァトーレ・ディ・ヴィータ 通称トト)

 マルコ・レオナルディ(青年期のサルヴァトーレ・ディ・ヴィータ 通称トト)

 ジャック・ペラン(中年期のサルヴァトーレ・ディ・ヴィータ)

    フィリップ・ノワレ(アルフレード)

 アニェーゼ・ナーノ(若年期のエレナ)

 ブリジット・フォッセー(中年期のエレナ)

 

 『ニュー・シネマ・パラダイス(完全オリジナル版)』を観た。以前,劇場公開版(短縮版)を観たことがあったが,あれは,173分の完全オリジナル版を123分に短縮した作品。見終わった感想は…完全オリジナル版と劇場公開版は別物だということだ。つまり,テーマが異なるということ。今回はその点を中心に感想を書いてみたい。

 

(ネタバレあり)

 ローマで映画監督として成功しているサルヴァトーレ・ディ・ヴィータに彼の故郷の母親から「アルフレードが死んだ」という連絡がくるところから映画が始まる。アルフレードとはサルヴァトーレが少年期と青年期を過ごした村で唯一の映画館「パラダイス座」の映写技師をしていた老人である。映画は回想シーンに移り,映画が大好きな少年トト(サルヴァトーレの愛称)とアルフレードとの映画を通じた交流が描かれる。アルフレードはいたずらな少年トトを息子のようにかわいがっているのだ。トトは成長し,立派な青年サルヴァトーレに成長する。彼は事故で失明したアルフレードに代わって「パラダイス座」の映写技師をしているのだが,このパートで描かれるのはサルヴァトーレとエレナの恋物語だ。この恋は成就せず,兵役を終えて村に戻ってきたサルヴァトーレの前からエレナは姿を消す。失意のサルヴァトーレに対しアルフレードは村を出てローマに行くように言う。

「村を出ろ。…ここにいると自分が世界の中心だと感じる。…人生はお前が見た映画とは違う。人生はもっと困難なものだ。行け。ローマに戻れ。お前は若い。前途洋々だ。」

 サルヴァトーレはローマに行く決心をする。駅でサルヴァトーレを見送るアルフレードは言う。

「帰ってくるな。私たちを忘れろ。…郷愁に惑わされるな。…自分のすることを愛せ。子供の時,映写室を愛したように。」

 シーンは現在に切り替わり,アルフレードの葬式に出席するために30年ぶりに帰郷したサルヴァトーレの姿が描かれる。

 

 青年サルヴァトーレに対するアルフレードの溢れんばかりの愛情…好きな女性と一緒になって生涯をこの田舎の村で過ごすのもいいかもしれない。しかし,世界はもっと広い。それを経験することでサルヴァトーレの人生はもっと素晴らしいものになるだろう。映画に拘る必要はない。「自分のすることを愛せ。子供の時,映写室を愛したように。」アルフレードにとってもとても辛い別れだが,サルヴァトーレへの想いが痛いほど伝わってくるのだ。そして,サルヴァトーレは成功する。

 

 現在。アルフレードの葬式に出席するために30年ぶりに帰郷したサルヴァトーレの目に映る故郷の町。人々は変わらない。しかし,時代は変わった。映画はテレビやビデオに取って代わられた。自分があれほど愛した「パラダイス座」はすでに閉館になっており,建物も取り壊されようとしている。すべては郷愁の中にある。サルヴァトーレにとって故郷の町は思い出の中にしか存在せず,生々しい現実ではない。その時だ。若き日のエレナとそっくりの女性の姿を見かけるのは。サルヴァトーレは確信する。その女性はエレナの娘だということを。そして,エレナは今もこの村に住んでいることを。サルヴァトーレとエレナの再会。サルヴァトーレは知る。エレナと連絡がつかなくなったことの真相を。エレナは決して思い出の中に存在するのではない。今,目の前にある生々しい現実なのだ。その時,サルヴァトーレは実感する。都会での成功と引き替えに自分が失ったものの大きさを。

 

 人生とは選択の連続だ。どんな選択をしても必ず後悔はある。しかし,自分の選択の裏に自分の人生への大きな愛情を注いでくれた存在を感じるとき,後悔も郷愁の中に消えていくのだろう。ラスト。アルフレードの形見のフィルムを見ながらサルヴァトーレの胸に去来したものは自分の人生に対するアルフレードの愛情だった。 

 

以上が完全オリジナル版を観た私の感想である。

 

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 さて,上でテーマが異なると述べた劇場公開版(短縮版)はどうであろうか。上にも述べたように,劇場公開版は173分の完全オリジナル版を123分に短縮したものであるが,短縮されているのは主にサルヴァトーレとエレナの恋物語の部分である。たしかに,青年サルヴァトーレがエレナと恋をするというシーンはあるが,完全オリジナル版と比べてかなりカットされており,完全オリジナル版で描かれているエレナが消息を絶つ具体的な事情は描かれてはいない。さらに,もっと重要なのは,サルヴァトーレが30年ぶりに帰郷するシーンで,サルヴァトーレとエレナが再会するシーンは完全にカットされているということだ。したがって,サルヴァトーレの帰郷は彼の郷愁にスポットを当てることになり,その結果,有名なラストは,子供の頃に愛した映画とアルフレードに対する郷愁を描いたものになるのである。全体として描かれているのは,映画を通じたトトとアルフレードの映画愛なのである。

 

 どちらの版を好むかは,この映画を見る人の趣味によるだろうが,私には,短縮版はアルフレードがサルヴァトーレにローマに行くように言うシーンと映画全体とのバランスが少し悪いように思われた。