米海軍の新型ジェット練習機、T-50提案を予定していたロッキードが撤退
米海軍はパイロット養成に使用しているT-45後継機の最終提案依頼書を発行し、T-7A、M-346N、TF-50Nが競合すると予想されていたが、Lockheed Martinは「入札に参加しないことを決めた」と明かし、韓国航空宇宙産業は元請業企業になる資格がないため「T-50の米国市場進出」は失敗に終わった。
参考:EXCLUSIVE: Lockheed exits Navy trainer aircraft competition
Lockheed MartinがT-45後継機へのT-50提案を断念した詳しい理由や、これに関与している韓国航空宇宙産業の声明は発表されていない
米海軍はパイロット養成に使用しているT-45 Goshawkの後継機(Undergraduate Jet Training System=UJTS)探しを2020年に開始し、UJTSに関する情報提供依頼書(RFI)の中で「アレスティングワイヤーによる着艦能力」や「タッチアンドゴー対応」を要求しないという謎仕様で注目を集めたが、これは自動着艦技術の成熟に加え「もうパイロットの着艦資格取得や維持に(ドック入り前や海外展開前の)空母を費やす贅沢が許されない」という事情に起因している。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Huey D. Younger Jr./Released
これまでの艦載機パイロットは空母着艦のための最終アプローチを手動で制御する必要があり、パイロットに着艦資格を取得させるためには膨大な訓練が必要だったものの、F-35Cには最終アプローチを安全に行うためのDelta Flight Path(DFP)が採用されているため、パイロットは経験や能力に頼った最終アプローチから解放され、この技術をベースにMagic Carpetと呼ばれる精密着艦モード(Precision Landing Mode=PLM)が開発されたことでF/A-18E/FやEA-18Gの着艦作業も劇的に容易になった。
PLMを使用しないと最終アプローチ(平均18秒間)中に300回近いコース修正が行われるが、PLMを使用すると着艦経験の少ない新人パイロットでも20回程度のコース修正で着艦でき、既に着艦資格取得訓練(Carrier Qualifications=CQ)からも手動による最終アプローチが廃止済みで、グレゴリー・ハリス少将も「運用に費用がかかる空母を使用して着艦資格の取得や維持を行うという贅沢(ドック入り前や海外展開前の空母を訓練空母に指定すること)はもう許されない」と述べていたが、2024年6月に発行したRFIの中で再び「着艦訓練の必要性を慎重に検討している」と述べ、UJTSの入札開始を2024年から2026年に延期。

出典:Air Force photo by Bryce Bennett
UJTSには3つの競合(T-7A、M-346N、TF-50N)が浮上しており、T-7Aは新型射出座席が設計通りに機能せず、飛行制御用のソフトウェア開発が難航し、構成部品の品質問題にも悩まされ、2026年から2027年にIOC宣言がずれ込むと予想されていたが、空軍は予算案の中で「2028年にずれ込む」と明かし、M-346Nを提案しているTextronとLeonardoに「新聞やメディアのニュースを読む限りT-7Aが有利だと思っていない」と言われる始末で、もはやT-7AをUJTSの競合相手とすら見ていない雰囲気だった。
Lockheed Martinと韓国航空宇宙産業もATTやUJTSへの挑戦を見越してT-50へのATARS(RED6が開発したATARSはAR技術を応用した訓練システム)統合を発表、このシステムはT-7A、F-15EX、Hawk T2、AERFLEXへの採用が決まっており、Lockheed Martinは「最終的にF-16、F-22、F-35といった当社のプラットフォームにも統合される可能性がある」と述べているため、T-7Aが備えている拡張能力や再現能力はT-50にも引き継がれ、海外市場に供給されているF-16やF-35にもATARSを統合すればT-50の強みが増す格好だ。

出典:U.S. Air Force photo by Zelideth Rodriguez
しかし、UJTSの入札開始が2年先送りされたことでT-7Aは問題を解消して成熟する時間を与えられとも解釈することができ、2025年12月に初のT-7A=EMD5号機が試験評価部隊ではなく実際の運用部隊(第12飛行訓練航空団の第99飛行訓練飛行隊)に引き渡され、2026年1月にはT-7A=EMD3号機も同部隊に引き渡され地上訓練シミュレーターも稼働を開始し、まもなくマイルストーンC=量産が承認されてT-7Aの空軍納入が加速されるらしい。
そして海軍は3月末にUJTSに関する最終提案依頼書(RFP)を発行、この中で「UJTSは空母への着艦を想定して設計する必要はない」「艦載機パイロットが実施している陸上での空母離着陸訓練もUJTSでは実施しない」「代わりにUJTSは空母着艦をシミュレーションする独自の機能を備える」と説明し、Lockheed MartinはBreaking Defenseの取材に「RFPを慎重に分析した結果、T-45後継機入札に参加しないことを決めた」「UJTS入札要件を満たす(米国製と海外製の)構成要素に関する供給割合や他の理由から、当社の提案はUJTSにとって最適な解決策ではないと判断した」と明かした。

出典:Textron Aviation Defense LLC
TextronとLeonardoはRFP発行について「M-346Nの準備は万端だ」「M-346NはUJTSにとって最適なソリューションになる」と語っているため、T-45後継機はT-7AとM-346Nによって争われるようだ。
Lockheed MartinがT-45後継機へのTF-50N提案を断念した詳しい理由や、これに関与している韓国航空宇宙産業の声明は発表されていないので何とも言えないが、AviationWeekは2025年2月「パイロットの育成コストが高騰しているため練習機に対する需要には変化の兆しがある」「T-38やHawkが全盛期だった時代との大きな違いはシミュレーションと地上訓練だ」「現在の訓練プログラムは航空機の挙動だけでなく使用するシステムの特性まで地上シミュレーターで再現できる」「そのため訓練生が空を飛ぶのは地上で学んだ内容の確認と反復に過ぎない」と指摘したことがある。

出典:Pilatus Aircraft
ジェット練習機の将来に暗い影を落とす「もう1つの要因」は次世代ターボプロップ機との競争で、PilatusのPC-21やEMBRAERのスーパーツカノは戦闘機パイロット向けトレーニングシラバスの大部分(ジェット練習機でしか対応できないトレーニングは約10%)に対応することができ、欧州で最も先進的と評されるフランス空軍もBabcockが提供するトレーニングプログラムを採用し、後継機なしで訓練用途のアルファジェットを退役させ、PC-7とPC-21のみでラファールのパイロットを育成している。
AviationWeekは「まだ幾つかの訓練要件やF-35パイロットの技量維持で役立つかもしれない。そのためT-7Aはニッチな用途で新たなニーズを見つけかもしれないが、ボーイングが期待するほどの需要は見込めないだろう。T-7Aは多少高価でも合理的な練習機としての立場を維持し、かなりの数の欧州諸国もM-346やT-50といった競合機を購入するかもしれないが、シミュレーター訓練は非常に高度なものになっているため、先進的なジェット練習機の必要性はトレーニングシラバスの一部に限られる」と指摘し、以下のように疑問を投げかけた。

出典:Pilatus Aircraft
“全ての軍隊が自問する基本的な疑問はこうだ。PC-21を使用すれば1時間あたり半分のコストで同等の訓練が実施できるのに、なぜ高価なジェット機を飛ばさなければならないのか”
この兆候や予測が正しいのなら「Lockheed Martinは選択と集中の観点から(期待できる収益規模に達しないと判断して)ジェット練習機事業への投資を取りやめた」とも言えるが、一つだけ言えるのは韓国航空宇宙産業は国防総省の元請企業になる資格がないため、Lockheed Martinが撤退した以上「T-50の米国市場進出」は失敗に終わった。
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin
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