文学部でIT技術を学べる慶應義塾大学の図書館・情報学 「情報を扱う力」が評価、コンサルなどに就職
朝日新聞Thinkキャンパス 配信より
文学部でIT技術を学べる慶應義塾大学の図書館・情報学 「情報を扱う力」が評価、コンサルなどに就職(朝日新聞Thinkキャンパス) - Yahoo!ニュース 配信より

文学部でIT技術を学べる慶應義塾大学の図書館・情報学 「情報を扱う力」が評価、コンサルなどに就職
「図書館情報学」という学問は、図書館で働く司書を養成するイメージがありますが、いまの時代はネットでの情報システムや、デジタルアーカイブについての研究も深めています。
従来の図書館学と情報学を融合させて、デジタル化が急速に進む中でニーズが高まっています。図書館情報学での学びを紹介します。
(写真=慶應義塾大学文学部図書館・情報学専攻の福島幸宏ゼミの様子、慶應義塾大学提供)
【写真】文学部でIT技術を学べる、慶應義塾大学の図書館・情報学
情報学から図書館の運営までを学ぶ
図書館情報学を学べる大学として、歴史があるのが慶應義塾大学と筑波大学です。
筑波大学は2002年に図書館情報大学と統合し、図書館情報専門学群が設置されました。
現在は、情報学群の知識情報・図書館学類として、図書館やインターネットのような知識共有の仕組みの企画・運営やそれを支える情報システムについて学び、適正に構築・管理するための経営的能力や技術力、情報の活用能力を身につけます。
慶應義塾大学文学部の図書館・情報学専攻の前身は、1951年に日本で初めて開設した「図書館学科」です。
当初は図書館員の養成機関としての役割が主でしたが、68年には図書館学だけではなく、さまざまな記録情報を扱う情報学も含めて研究対象を拡大し、「図書館・情報学科」と改称しました。
2000年の文学部学科の改組に伴い、「人文社会学科図書館・情報学系図書館・情報学専攻」となり、近年増えている情報系の先駆的存在ともなっています。
図書をはじめとした人間や社会の知識や情報を、IT時代にどうやって有効に活用するのかという過程を学びます。
文学部の福島幸宏准教授は、現在の図書館・情報学専攻について、「文学部でありながら、情報系を学べるという点に魅力を感じて入学する学生が多い」と言います。
「図書館・情報学専攻には8人の専任教員がいますが、情報処理や情報検索、テキストマイニング(テキストデータから意味やパターンを抽出し、情報を解析する分析方法)を専門とする教員、社会学的な手法で図書館や情報の流れを研究している教員、書物の歴史自体を検討する教員、図書館の制度や経営を専門とする教員など、専門分野はさまざまです。
文学部の中にありながら、文理融合で多様な分野を学ぶことができます」
慶應義塾大学の文学部は、1年次は単一学科で、総合的な視点を養う中で自分が進むべき専攻を見極めていきます。2年次になると、「文学系」「史学系」「哲学系」「人間関係学系」「図書館・情報学系」の中の17の分野から専攻を選択し、学びを深めていきます。
図書館・情報学専攻4年の宮下凌輔さんは、中学生の頃から図書館に興味があり、図書館学を学べる慶應義塾大学文学部に進学、2年次になってもその思いは変わりませんでした。
「高知県出身ですが、中学生の頃に高知県立図書館と高知市民図書館が合併した『オーテピア高知図書館』という図書館が開設されました。施設内に科学館も併設されている大きな図書館で、初めて見に行った時に、あらゆる分野の本があって図書館ってすごいと思い、それを機に図書館そのものに興味を持つようになりました。それから、いろいろな図書館を巡るようになり、散歩するような感覚で書架の配置をはじめ館内を見て回るようになりました」
興味は図書館から情報へ
ただ、志望通りに図書館・情報学専攻に進んだものの、最初の頃は授業を理解するのが難しかったと言います。 「情報資源を整理して検索可能な形にする『情報資源の組織化』といったことを中心に学びますが、初めて学ぶ分野なので、2年次の頃は理解が追いつきませんでした。どの授業も参考資料が提示されているので、そうした資料やレジュメを使って予習、復習を重ね、少しずつ理解できるようになっていきました」 指定された図書を書架から見つけ出すなど、図書館を利用した授業もあります。
「今はわからないことがあると、ネットで調べたり、生成AIに聞いたりしてすぐに情報を得られますが、図書館・情報学専攻での学びを通して、図書館で調べるという選択肢を持てるようになりました。図書館では、気になっている情報以外のことも知ることができたり、欲しかった情報にたどり着けた時の達成感を感じたりすることができます」
3年次になると、図書館のサービスと運営を中心に学ぶ「図書館コース」、情報メディアが社会で果たす役割について理解する「情報メディアコース」、情報処理技術の基本とともに情報検索や情報組織化の考え方やIT技術の習得を目指す「情報管理コース」から1つのコースを選び、専門性を高めていきます。
宮下さんは、2年次の基礎的な学習を経て、図書館だけではなく情報そのものに興味を持つようになり、情報管理コースを選択しました。
このコースの授業で宮下さんが特に印象に残っているのは、文化財や歴史的資料をデジタル化して保存、公開する取り組みを学ぶ「デジタルアーカイブ論」です。
「デジタルアーカイブの『未来に継承していく』という考え方に魅かれました。実際のアーカイブの事例や手法、著作権などの課題といったことも学び、まだ確立されていない部分もある分野だからこそ魅力を感じ、卒論のテーマを決める指針にもなりました」
3年次の秋学期からはゼミに所属し、卒業論文の準備がスタートします。
宮下さんが所属する福島准教授のゼミでは、デジタルアーカイブや博物館、図書館、公文書館の連携、資料保存について研究しています。
「卒論は、公共図書館における地域資料のデジタルアーカイブの役割と実態をテーマに取り組んでいます。図書館の職員の方にデジタルアーカイブの運営方法などについてインタビュー調査し、さらに利用者の方の利用実態や課題などを調査していく予定です。自分が本当に興味あるテーマを研究できている今が、とても楽しいです」
(宮下さん)
福島准教授は、図書館・情報学専攻では「特に卒論を重視している」と言います。
「図書館・情報学専攻は、情報を扱う力を身につけていきますが、卒論を仕上げる過程で文献やインタビュー、アンケートなどによって情報を集める、情報を検索・分析するなど、1年次からのすべての授業や実習が卒論に結びついています」
幅広い業界で必要な「情報を扱う力」
宮下さんは、大学院への進学を目指しています。
「デジタルアーカイブや情報資源の構造、活用に関する研究をより深めることで実践的な技術を身につけ、将来的には図書館などアーカイブ機関でその技術を生かしていきたいです」 情報を扱う力は、さまざまな場で求められているため、図書館・情報学専攻の卒業生の就職先も多様です。
「最近はコンサルタント会社や情報通信産業への就職が目立ちます。そのほか報道、出版関連、大学職員、公務員なども多いです。情報を扱える力は、幅広いジャンルで需要があります」
(福島准教授)
もちろん、図書館員を養成するという創設時の目的通り、現在も図書館業務に関わる専門職を育成する機能はあり、図書館実習など必要な科目を履修すれば、司書資格や司書教諭資格を取得することができます。
図書館情報学を学べる大学は、慶應義塾大学や筑波大学のほかにも、愛知大学文学部人文社会学科現代文化コース図書館情報学専攻、駿河台大学メディア情報学部情報・図書館コース、聖徳大学文学部図書館情報コースなどが専攻やコースを設置しています。
東京大学図書館情報学研究室のように、研究室を設けている大学も多くあります。
ますます複雑になる情報化社会において、図書館・情報学での学びが役立つことは間違いありません。
朝日新聞Thinkキャンパス
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