日本製鉄・橋本英二会長が母校講演で語った「USスチール買収計画」への思い 交渉大詰めで「もう少しで決着」と心中明かすも「黄金株」には言及せず
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日本製鉄・橋本英二会長が母校講演で語った「USスチール買収計画」への思い 交渉大詰めで「もう少しで決着」と心中明かすも「黄金株」には言及せず(マネーポストWEB) - Yahoo!ニュース 配信より

6月13日、母校・人吉高校で講演した日本製鉄・橋本英二会長兼CEO
日本製鉄によるUSスチール買収計画が大詰めを迎えるなか、計画を主導してきた日鉄の橋本英二・会長兼CEOが13日、郷里の熊本県人吉市の母校・人吉高校での講演で、ここまでの1年半の買収交渉を振り返った。
橋本氏は「(バイデン氏とトランプ氏)2人の大統領が反対するという、こんなに大きな壁はないぐらいの壁が立ちはだかっている」としつつ、「一歩一歩よじ登ってきて、もう少しで決着つく。うまくいけば登り切れる」と、交渉妥結に自信を示した。
計画をめぐって、完全子会社化の方針を一貫して主張している橋本氏だが、トランプ氏はこの日の未明、「我々は(USスチールの)黄金株を持つ。大統領がコントロールする」「米国人が51%の所有権を持つ」と発言。そのことには言及しなかった。
そもそも買収計画は、橋本氏が社長だった2023年12月にぶち上げたプロジェクト。ただ、会長就任後は今井正社長に発信役を委ねており、トップの橋本氏が公の場に姿を現したのは、前大統領のバイデン氏による阻止命令に対し「諦める理由も必要もない」と述べた今年1月の会見以来、5か月ぶりだ。
日鉄とUSスチールの買収契約の最終期限である6月18日が近づくなか、橋本氏は、生徒からの質問に答えるかたちで、「まもなく白黒がつく」と語り出し、こう状況を説明した。
「2代の大統領と1年半以上、いろんな厳しい交渉を続けています。時差が13時間ある。関税問題で大統領も忙しいけども、長官やその他のホワイトハウスの職員も忙しい。なかなか時間を取って交渉というのも難しいという状況のなかで、社運をかけてやっています」
強気の発言も健在だった。
「日本も復活できるというシンボルになる」
「私が社長になった時(2019年)は日本製鉄の売り上げは4兆5000億円でした。
その後、インドで製鉄所を買うなどして今は倍の9兆円ぐらい。
USスチールと合併するとそれが約15兆円になる」
(橋本氏)
さらに、完全子会社化の方針を堅持する日鉄に対し、立ちはだかってきた2人の大統領についても言及があった。
先に前大統領のバイデン氏について橋本氏は、「『安全保障上の問題がある』と言って、あるはずないのにでっち上げてダメだと言ってみたり」したと“分析”。
トランプ氏については、「大きな投資はありがたいが、アメリカを支えてきた鉄鋼メーカーを外国の手に委ねるのは嫌だ、アメリカの手で復活させないとアメリカの恥である、自分がこれをやるという価値観、これは正しい」という認識を明らかにした。
その上で、「元々世界一だったUSスチールが、私どもが(米国に)行くことで初めていろんな問題を解決できる、ということを訴えて、トランプさんに、考え方を変えてもらおうということで(ここまで)来ている」と現状を説き、日鉄・USスチールの連合による“製造業の復権”という持論を改めて語った。
また、ピークアウトした企業が復活の末に世界ナンバーワンに返り咲いた前例がないことに言及した橋本氏は、「もう一回、日本製鉄が世界一の鉄鋼メーカーになれば、日本も復活できるというシンボルになる」と、日本再生への“野心”を口にした。買収をめぐる米政府との交渉は大詰めを迎えている。
バイデン氏が発した買収破棄の期限まであと5日と迫り、買収不成立の可能性に言及するメディアもある。
橋本氏がホワイトハウスのトランプ氏と握手する日はくるのか。
■取材・文/広野真嗣(ノンフィクション作家)
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「マネーポストWEB」掲載のシリーズ「日本製鉄のUSスチール買収問題」では、バイデン政権から買収中止命令が出る直前のタイミングでの「日本製鉄・橋本英二会長の独占インタビュー」や日鉄OBの証言、日米鉄鋼摩擦の交渉にあたった元経産官僚の最新現状分析などを掲載している。
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