「4軍」から這い上がった立教ボーイ。メンバー外でも失わなかった神宮への熱い想い
上原伸一ノンフィクションライター
「4軍」から這い上がった立教ボーイ。メンバー外でも失わなかった神宮への熱い想い(上原伸一) - エキスパート - Yahoo!ニュース 配信より
大学野球の聖地・神宮球場。リーグ戦でプレーできる東京六大学の選手は全部員のうち僅かである(筆者撮影)
東京六大学各校の「弟分」の現状
4月19日に行われた法政大学対立教大学の1回戦。同点で迎えた9回裏、代打で登場した
立大の野村陸翔(4年、立教池袋)はサードにゴロをはなつと、1塁に猛然とヘッドスライディング。これを内野安打とし、サヨナラ勝ちを呼び込んだ。
野村は中学から立教(立教池袋中)の「立教ボーイ」。ただ、立大野球部では叩き上げの「苦労人」だ。立教池袋高までは中心投手だったが、立大では野手に転向。スタートはAからDまで4チームあるうちのDチーム。つまり、4軍からのスタートだった。
かつて立大は「弟分」の立教高校出身の選手が主力を占めた時代があった。しかし2008年にそれまで廃止にしていた「スポーツ推薦」を「アスリート選抜入試」という形で復活させると、甲子園で名を馳せた有力選手が次々に入学するように。
一方で、立教高としては春、夏通算で2度の甲子園出場はあるが、2000年に立教中学が「立教池袋中学校・高等学校」に、立教高が「立教新座中学校・高等学校」になって以来、両校の甲子園出場はない。大学入学時点の「アスリート選抜入試組」と「附属校組」のレベルの差は大きく、「附属校組」がスタメンを張る機会は少なくなっていった。
ちなみに東京六大学他校の附属校出身選手を見てみると、早稲田大学では系属校の早稲田実業や附属高の早稲田高等学院の選手が、慶応義塾大学では慶應義塾高出身の選手が活躍している。だが、法大や明治大学はというと、立大同様に附属校の選手はあまり目立たない。
これは「弟分」の戦績とも関係があるかもしれない。法大の附属の1つである法政二高は甲子園で夏・春連覇(1960年夏、1961年春)をしている古豪として知られるが、1988年夏を最後に甲子園から遠ざかる。また明大は、唯一の直系附属校である明大明治が、春、夏通算で7回の甲子園出場を果たしているが、1965年春以来、甲子園出場はない。
大人の学生として野球を続ける難しさ
さて、立大の野村の話に戻ろう。野村は言わば「4軍」から這い上がったわけだが、これは生半可なことではない。まず、チーム内競争に勝たなければならない。立大は例年、野村が守る外野だけでも、4学年合わせると30人くらいはいる。大学で野手に転向した野村にとって、Aチームに入り、かつ、リーグ戦のベンチに入ることはかなり高いハードルだったに違いない。入部時点では「アスリート選抜入試組」との力量の差も感じたようだ。
メンバー外の選手には、チーム内競争とは別の戦いもある。それは高校時代にはなかった戦いだ。大学生ともなれば、大人である。ここが難しい部分で、大人だから、プレーヤーとしての自分に、早々に見切りをつけてしまうところもある。また、高校時代より自由度が増すことで、新しい世界を知り、それによって、自分のなかの価値観や選択基準が変わることも。さらには就職に向けての準備もしなければならない。しかし、メンバー外の選手はこうしたなかでも、自分に打ち克ち、モチベーションを保ち続けていかなければならないのだ。

他方、スポーツ推薦で入学しながら、モチベーションを保てなかった選手の話もよく耳にする。そこには高校時代の甲子園のような明確な目標設定ができなかったなど、様々な理由があるが、なかには、大学で視野が広がったことが、マイナスに作用した例も。高校までは野球一筋だった反動だろう。
野村はメンバー入り争いも、内なる自分との戦いも乗り越えた。今春のリーグ戦で初めてリーグ戦のベンチ入りを果たすと、慶大とのチーム開幕戦では代打で登場。リーグ戦初安打となる二塁打をはなった。そして冒頭の通り、法大1回戦ではサヨナラ勝ちの殊勲者に。スタンドからは万雷の拍手を浴び、様々なスポーツメディアに野村陸翔の名が載った。
野村にしても、もしかしたら、モチベーションを失いそうになった時が、心が折れそうになった時があったかもしれない。それでも、腐ることなく、自分を信じて前を向き続けたから、この日が訪れた。
4軍から這い上がってヒーローになった立大の野村。応援席にいる自校のメンバー外の選手だけでなく、他校のメンバー外の選手にも勇気を与えたに違いない。
ノンフィクションライター
Shinichi Uehara/1962年東京生まれ。外資系スポーツメーカーに8年間在籍後、PR代理店を経て、2001年からフリーランスのライターになる。これまで活動のメインとする野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在はベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」、「大学野球」、「高校野球マガジン」などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞「4years.」、「NumberWeb」、「スポーツナビ」、「現代ビジネス」などに寄稿している。「Yahoo!ニュース エキスパート」でMVA賞を2度受賞。
私のコメント : 令和6年12月3日、東京都 池袋 立教学院史資料センター 職員と私は、対談した。