〈川内原発運転差し止め住民敗訴〉大規模複合災害のリスクに踏み込まぬ判決に、識者は「前例主義に陥れば思考停止の危険」と警鐘

南日本新聞 配信より

 

〈川内原発運転差し止め住民敗訴〉大規模複合災害のリスクに踏み込まぬ判決に、識者は「前例主義に陥れば思考停止の危険」と警鐘(南日本新聞) - Yahoo!ニュース 配信より

 

1号機(左)が40年超の運転延長入りしている九州電力川内原発。右は2号機=2024年7月4日、薩摩川内市

 

九州電力川内原発(薩摩川内市)の運転差し止め訴訟は2012年5月の提訴以降、再稼働推進をはじめ今や原発回帰が鮮明な福島第1原発事故後の国策の変遷と時期を同じくしてきた。13年近くたち住民側の訴えを退けた21日の鹿児島地裁判決は国策に追従した形だ。識者は提訴のきっかけとなった福島事故を念頭に「事故リスクがゼロになることはない」と警鐘を鳴らす。

 

  【写真】川内原発の運転差し止めを求める訴訟の判決公判が行われた法廷=21日午後、鹿児島地裁(代表撮影)

 

福島事故は提訴前年の11年3月に発生。水素爆発を伴い、大量の放射性物質を放出した。深刻度を示す国際評価尺度は旧ソ連のチェルノブイリ事故と同じ最悪の「レベル7」。川内原発は同年9月までに2基とも定期検査入りで停止した。  事故を踏まえた新規制基準の施行に合わせ、九電は原子力規制委員会に再稼働手続きを申請。規制委は14年3月、川内原発の優先審査を決めた。火山関連の規制基準は「監視」止まりの一方、九電が基準地震動(想定される最大規模の揺れ)を大幅に引き上げたのが決め手だった。  15年8月、1号機は全国の原発で初めて再稼働にこぎ着ける。24年7月には、再稼働した原発では初となる40年超の運転延長期間に入った。この間、国は原発政策について、福島事故の反省を受けた「可能な限り依存度を低減」から「最大限活用」に転換した。  電力の安定供給と脱炭素社会の実現が大義名分だ。60年超の運転を可能にする新制度は6月に始まる。今月18日には、福島事故後にストップした川内原発増設の道筋を描くエネルギー基本計画が閣議決定された。

 今回の判決は、新規制基準をクリアした原発の安全性を「一応推認する」との前提に立った。原子力資料情報室の松久保肇事務局長(46)は、想定外の事故リスクは常にあるとし、「原発事故時の被害の大きさは(住民が)引き受けられるものではない」と指摘した。 ◇識者に聞く 勝田忠広明治大学教授(原子力政策)  提訴から13年という長い裁判であったにも関わらず、表面的な内容で残念だ。原告は敗訴したが、判決が川内原発の安全性を裏付けるものではないことは留意しないといけない。  判決要旨は原子力規制委員会の判断や事業者の安全対策について「不合理性がない」と繰り返している。原発の問題は合理性のあるなしではない。規制委の判断や制度の作り方、それを受けた電力会社の対策は十分か、その先見性や予見性が問われている。福島第1原発事故の反省に立てば、全方向への配慮や対策の抜け落ちはないかなどが争点になるべきだった。  原告側は火山評価や避難計画がしっかり機能するのかを懸念している。不十分な点は多いはずだが、判決に大規模噴火の影響や複合災害の要素に関する踏み込んだ言及はない。いくらやっても100%ということはない。これが「安全対策は十分」という誤ったメッセージとして受け止められては困る。

 川内原発は福島の事故後、真っ先に再稼働した。大きな問題はなかったが、たまたま大丈夫だっただけとも言える。原発の規制基準はあくまでも最低限の安全性を求めているだけで、それが十分かどうかはまた別の話だ。第一義的責任は事業者にあり、事業者は常に改善し、予見性を自ら探る姿勢を求められる。司法は本来、それができているかを見るべきだ。  司法に地元の不安は伝わっていないように映る。前例主義に陥り、「問題ない」と思考停止してしまうのは危険だ。  ■かつた・ただひろ 1968年、鹿児島市出身。広島大学大学院工学研究科博士課程修了。原子力規制委員会の原子炉安全専門審査会・核燃料安全専門審査会委員や、新規制基準策定に関する検討チームメンバーを務めた。2018年から現職。

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