下水道管だけではない「日本の危険なインフラ」 高速道路、橋、マンションが総崩れの危険
デイリー新潮配信より
下水道管だけではない「日本の危険なインフラ」 高速道路、橋、マンションが総崩れの危険(デイリー新潮) - Yahoo!ニュース 配信より

10年、20年で一挙に老朽化する下水道管
当初は「建設費が償還されたら無料化」の話もあったが…(写真はイメージ)
1月28日午前10時ごろに発生した埼玉県八潮市での大規模な道路陥没事故は、原因が地下に埋設された下水道管の劣化だったため、今後も全国で同様の事故が起きるのではないかという不安の声が広がっている。事実、国土交通省の調べでは、下水道管が原因で道路が陥没した事故は、2022年に全国で約2,600件も発生していたという。
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下水道をはじめとする日本のインフラストラクチャーが、長い時間をかけて少しずつ整備されたものであったなら、問題はもっと小さくて済んだだろう。だが、国交省によると2022年度末の時点で総延長が約49万キロにおよぶ日本の下水道管は、その多くが高度経済成長期に埋設されている。
法定耐用年数は50年で、現状でもそれを超えたものが約3万キロあり、10年後には約9万キロ、20年後には約20万キロに増えるという。しかし、30年も過ぎれば老朽化して傷みが生じやすくなるというので、今後は全国各地で、八潮市のような事故が発生する危険性があるということだ。実際、八潮市の事故を招いた下水道管は埋設されて42年で、法定耐用年数には達していなかった。
八潮市の事故発生後、下水道管が腐食していないか緊急点検を実施している自治体も多い。しかし、同時期に設置された下水道管が多いために老朽化のタイミングが重なり、点検や修繕を行う予算も人員も足りないのが現状である。 「年収103万円の壁」も「高校授業料無償化」もいいが、老朽化した下水道管の点検や修繕のための予算を確保するほうが先ではないか。そう指摘したくもなるが、実をいえば、下水道管だけを見ていればいいという状況ではまったくない。
通行料で高速道路を維持できるのか
たとえば高速道路。その総延長は2023年度末で供用区間が1万458キロもあり、そのすべてが高度成長期以降に建設されている。だから、たとえばNEXCO東日本のホームページにはこう書かれている。「誕生からおよそ半世紀が過ぎ、老朽化が進む高速道路。安全・安心を次の世代へつなぐために、長期にわたり、橋やトンネルなどの大規模なリニューアル工事を実施しています」。
高速道路は下水道と違い、基本的に地上に存在するので点検はしやすい。とはいえ、わずか半世紀で1万キロもの大規模な道路が建設されたのである。現状、修繕費は増加の一途をたどっており、23年時点で東日本、中日本、西日本、および首都高速と阪神高速の高速道路各社は、合計で約1.5兆円もの修繕費が追加で必要だとしている。
そもそも高速道路は、一定期間を過ぎて建設費が償還されたら無料化される、と説明されていた。しかし2023年2月、料金を支払うべき期間を、それまでの2065年までから、最大で50年延長することが閣議決定された。あまりに当然の判断である。
無料化を視野に入れていたということは、いずれ修繕費がかからなくなるという見込みだったのだろうか。見通しが甘すぎるとしかいいようがない。日本は山地が多い地震国だから、高速道路の建設は費用がかかるだけでなく、安全性を確保するための修繕費も欧米の比ではない。日本の高速道路は、通行料が欧米にくらべて高すぎるという指摘もあるが、致し方ない。
もっと大きな問題はさらに先にある。現在、開通してから30年以上になる道路は4割を超えているが、20年後には総延長1万キロのすべてが30年を超える。これほど急速に老朽化する高速道路を現行の通行料で維持できるのか。少子高齢化が予想をはるかに超える速度で進んでいる以上、無理なのではないだろうか。
対策に着手できない危険な橋
だが、通行料を徴収できない道路はもっと深刻だともいえる。とくに橋である。2021年度末時点で全国に約73万本の橋があり、それらも多くは高度成長期以降に架けられたものだ。 2012年に発生した笹子トンネル崩落事故を受けて改正された道路法で、国や地方自治体などの道路管理者には、橋などを5年に1度点検することが義務づけられた。それを受けて2018年までに、6万6,354本の橋が5年以内に措置を講ずるべき状態にあると判定されている。
それから5年を経た2023年末の時点で、国交省や高速道路会社が管理する橋は、ほぼ対策がとられたようだ。しかし、73万の橋うち50万以上は地方自治体が管理する市町村道のもので、その場合は、必要な措置を講ずるのも簡単ではないようだ。それでも83%の橋は対策に着手されていたが、逆にいえば、17%は着手できずに放置され、とくに危険性が高い場合は通行止めにされるなどしていた。下水道管と同様、予算も人員も足りないため、手をつけられずにいるのである。
道路の陥没に続き、橋の崩落に人が巻き込まれかねない状況だといえる。しかも、少子高齢化の影響で税収が減り、今後も減る可能性が高い地方自治体は、これから橋をふくむ道路を維持するのが、ますます困難になる。「103万円の壁」の引き上げで地方税収が減少し、手取りは増えたが事故も増えた、ということにならなければいいが。
老朽化したマンションが廃墟になる
マンションも同様である。国交省によると、日本にはじめて民間のマンションが登場したのは高度成長がはじまったばかりの1956年で、その戸数は2023年度末までに700万を超えた。それらもこれから急速に老朽化する。築40年を超えるマンションは2023年末現在では135万戸だが、あと10数年で過半は築40年を超える。
老朽化したら建て替えるのか。しかし、建設費が高騰するなか、老朽化とともに高齢化した住人が建て替え費用を捻出するのは簡単ではない。では、建て替え時に床面積を増やして、余剰分を販売することで住民の負担を減らすのか。しかし、もう容積率を増やす余地がない場合もある。床面積を増やすことができたとしても、これから少子化が進んで住宅が余るなか、それは現実的な選択ではなくなっていくだろう。
結局、建て替えが進まなければ住人が少しずつ減って、やがては廃墟になるしかなくなる。そんなマンションがこれから全国にあふれかねないのである。
厚生労働省の人口動態統計(速報値)では、2024年11月までに生まれた子供は66万1,577人で、年間70万人を割ることが確実視されている。統計がある1899年以降、はじめて100万人の大台を割った(97万6,979人)のは2016年で、そのときの衝撃は大きかった。100万人を割るような年が続いたらどうなるのか、と不安になる人も多かった。ところが、もはや100万人など夢のまた夢、わずか8年でさらに3割も減少したのである。
これほどの少子化のなか、下水道に、高速道路に、橋に、マンションに……、むろん、それだけではない。私たちはインフラを維持できなくなる危険に直面している。それは八潮市の陥没事故のような不幸が、各方面で日常化するということである。
しかし、問題に気づいて直視しないかぎり、対策を講じることも、少しはマシな未来につなげることもできない。その意味で、いまなお転落した運転手の救助が難航している八潮市の事故を、無駄にしてはいけない。
香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。
デイリー新潮編集部
新潮社
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